あやとり家族②
偽物のじーちゃん
「おかあさーん、また間違えて手紙来てるよ」
郵便屋さんのバイクの音が聞こえるとすぐにポストに行くのが楽しみだった私。
手紙を受け取り確認する。まだ小さかった私は漢字は読めなくても、じーちゃんの苗字だけが毎回違うことはわかっていた。
「おかしいね、なんで上田なのに村崎って書いてあるんだろうね?いっつもそうだよ、郵便屋さん間違えてるんだね」
そんなある日のことだった、何回も同じことを聞く私に母が言った。
「ももちゃん。実はね、じーちゃんはももちゃんの本当のじーちゃんじゃないのよ」
本当のじーちゃんではない、っという意味が分からなかった。
だって一緒に住んでいるし、ご飯も一緒に食べるし、肩叩いたり一緒に鯉に餌あげたりしているのに。
母は動揺してしている私に続けてこう言った。
「あのね、じーちゃんは他の人と結婚していて奥さんがいるの。だけど喧嘩して家を出てしまってうちのおばあちゃんのところに来たの。ほらたまに、よしえおばちゃんのところに行くでしょ?あそこがじーちゃんの本当の家なのよ」
私の大好きなじーちゃん。いつかどこかに連れていかれちゃう、じーちゃんと一緒に居れなくなっちゃう、でもじーちゃんはじーちゃんだ。ももちゃんのじーちゃんだ!ずっと一緒にいるもん。
混乱している頭、一気に流れる涙、やっと仲良くなれたのに居なくなってしまうんだと子どもながらに愕然とした。居なくなってしまうんだという不安しかなかった。
じーちゃんは子どもが好きではなかった。私が近づくといつも面倒くさそうにして、「外で遊んでこい」とかうまく誘導してきていた。
それでも私は諦めずじーちゃんに近づいて行った。だっていつも一人だったから。
私には兄弟がいる。長姉は父の連れ子で歳が10歳離れていた、環境のせいだろう、当時で言うバリバリのヤンキーでとても美人でスタイルも良くこの界隈ではだいぶ有名だったようだ。家で見かけることはほぼなく、自分の姉と理解したのも小学校に入ってからだった。だから、家ではたまにいる人。急に髪の毛を結んでやるとか言い出して私の髪の毛を結び始める。強く引っ張るから痛い、だけど怖くて痛いと言えなかった。だからお姉ちゃんに会うのはとても怖かった。
兄は年子で待望の長男。昭和あるあるでとても大事にされていて、いつも父の知り合いに連れ回されあちこち遊びに行っていた。だから一緒に遊べるのは双子の姉であるすずちゃんだけ。だけど、そのすずちゃんもいつも居なかった。
母はモーテルの仕事で昼間は清掃に入っている。時々時間があれば遊んでくれたが、お客さんが入ればそちらが優先。
ひとり遊びも得意ではあったが、何か作っても誰からも褒めてもらえない日が続いて、いつしか暇そうにしているじーちゃんに矛先が立った。