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あやとり家族⑨

二人で一台の自転車

双子だから、自転車も一台で。
二人で仲良く乗りなさいとお母さんは言った。
とはいえ、すずちゃんはばーちゃんと出かけてばかりだったから、唯一自分の好きな時に乗れる私のオモチャだった。
私は三輪車から始まり、自転車を乗りこなすのも他の子より早かった。

ある日珍しくお母さんの手が空き、一緒に居れる時間があった。それだけでも嬉しかった。ももちゃんは自転車の練習がしたいって伝えて。
補助輪を始めて外し、お母さんに後ろを持ってもらいながら走る練習をしていた。何度か繰り返しているうちに、お母さんが「離すよ」って言ってからの走行距離が伸びるようになって、自分でも自信がついてきた。
「道路走ってみる。絶対持っててね」ってお母さんに言う。
「離さないから大丈夫よ」って。
歩道に自転車を動かし、いざ。
勢いよく走り出し、お母さんが持っていてくれるから安心して上手に乗りこなす。
風を浴びながら、三輪車とは違った感覚。嬉しくてどんどんこいでいった。ちょっとした坂道も下り坂も難なくこなすことができた。お母さんが押さえていてくれていたから。
「ねえ、お母さんももちゃん上手?」
そういって振り返るとお母さんはいなかった。
すぐに転んだ。

ももちゃんは自転車の練習よりもお母さんと一緒に入れる時間が嬉しかったんだと思う。ももちゃんと遊んでくれたって。ももちゃんだけみてくれていたって。
さっきまでの自転車の嬉しさは寂しさに代わって、膝できた擦り傷と一緒に自転車を押しながら家まで戻っていった。
家に着くなり、その寂しさは怒りに変わった。
「お母さん、なんで手を離したの?離さないって言ったじゃん。いつ離したの?」
お母さんは笑いながら言った。
「ももちゃん上手に乗れているから大丈夫だと思って。家を出るときに離したのよ」

ショックだった。お母さんと一緒に自転車漕いでいると思ったのに。
結局一人。
いつも一人で遊んでて、子ども嫌いなじーちゃんみつけて相手にしてもらえるように頑張って、お母さんがやっと手が空いていたから遊べると思って喜んで。
結局一人。
お母さんはもう仕事で忙しくなっていて、膝に絆創膏だけ貼ってまたモーテルの仕事に戻っていった。
もう遊ぶ気力もなくて、プレハブ小屋に戻って一人で泣いていた。
膝は痛いし、お母さんと一緒に遊んでいたつもりが一人で遊んでいたことへの寂しさが込み上げる。
じーちゃんのところに行く気持ちにもなれず、もしじーちゃんに「今ね、、、」って話す事ができたらまた違っていたかもしれないけど。
裏切られた気持ちでいっぱいだった。
自分の事がわからなくなっていたんだと思う。


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