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映画評論家の視点とは?

先日、とある映画評論家の方にお話する機会が持てたので、今日はその話をさせていただきます。

2024年アカデミー作品賞を受賞した「オッペンハイマー」。「原爆の父」として、世界に名を轟かせた実在の人物の半生を描いた約3時間の映画。3月29日(金)から日本で公開しました。その映画を見て、私は色々と思うこと、感じることがあり、ネットの解説やネタバレ批評などに目を通し、自分なりに作品を解釈しようと思った時、映画評論家だったら何を見るのか、とても気になったのが、映画評論家の視点を知りたいという動機でした。

「オッペンハイマー」は原爆を開発した技術者であり、開発プロジェクトのリーダーでもありました。彼の良心の呵責がとても映画的に描かれている作品です。アメリカ合衆国への強い愛国心がある一方で、爆弾が多くの人の命を奪うものであることを知っていた。この爆弾が使われた後には、人間はきっとそれ以上に恐ろしい武器を製造することを止めることだろう、そんな性善説を信じていたオッペンハイマー。悲しくも時代は性善説ではなく、性悪説で水爆開発へと進んでいきます。爆弾開発前とその後がとてもリアリティに満ちたドキュメンタリーでした。

また、この作品は、爆弾投下後の冷戦時代の赤狩りについても描かれています。一時はアメリカの英雄ともなったオッペンハイマー、しかし、原爆開発により、凶悪な武器を作ることは無くなるだろうという彼の思惑とは反対に、水爆などの爆弾開発が進む中、共産主義者のレッテルを貼られ愛国心を持って接していたアメリカ合衆国から排斥されるオッペンハイマー、彼の愛国心や葛藤はとても人間味に満ちていて共感を生む一方で、世間や政治の手の平を返したような仕打ちが痛々しく描かれている作品でした。

日本人が見ると、広島、長崎が頭によぎるので、前者のテーマに関心が行きがちな作品でしたが、実は後者のテーマも私には大きく感じました。オッペンハイマーを排斥したのは、かつて彼に侮辱されたことを根に持った人間の恨みとも嫉妬とも思われる負の感情でした。たかが負の感情、されど負の感情が恨みを生み、それが増幅し何かのきっかけで戦争を生み、戦争の連鎖を止められなくする。まるで、それが原子爆弾の核分裂のようにも思えて、私たちに投げかけられているような作品でした。

平和が良いのは当たり前。でも、平和で愛に溢れた世界にしていくために、あなたは誰も恨んでいませんか?誰にも妬みはありませんか?誰にも負の感情を抱きませんか?そんなことを思わせてくれる素晴らしい作品でした。

で、その作品を映画評論家はどのように見るのだろう?それを聞く機会があったので、ご紹介します。私はそれを聞くまで、映画評論家は映画を主観で見て、解説も交えて違う視点を与えてくれる程度のものだと思っていました。(大変失礼ながら)。

映画評論家が映画の何を見ているのか?その答えは明確でした。それは、「なぜ、今、その映画をプロデューサーと監督が世に送り出したのか?」を伝えること。でした。

映画には莫大な予算が必要です。撮影セット、キャスト、シナリオ、CG、億単位のお金が動き、ヒットするのかしないのか分からないまま、1、2年の時間をかけて制作するのが映画で、それがその時代の人に受け入れられるかが映画ビジネスです。そのビジネスが成功するか否かにはプロデューサーの時代を読む力と監督の作品の完成度を高める力が鍵です。その映画のコンセプトにスタッフやキャストが納得と共感をして、知性を振り絞り作品に仕上げていきます。それだけのお金と労力が動く映画の「コンセプト」が無い筈がありませんし、それを蔑ろにして映画が語られてはいけないと思います。

たった2時間で、多くの人を同時に感動させ、楽しませ、何かを伝えられるのか、そこにはとてつもない知性が組み込まれて、多くのスタッフの思いが複雑に編み上がっています。

見る人はポップコーンを食べながら、好きな俳優の演技に注目したり、IMAXの音響で作品に没頭したり、さまざまではありますが、その2時間のために、何百人もしかしたら何千人の一年や二年にも及ぶ労力が詰まっていて、その力を結集させるために大切なのが、映画のコンセプトです。映画評論家は映画スタッフに最大限の敬意を払い、一番大切な「なぜ?」に真剣に向き合っているのでした。

「なぜ、今、その映画を世に送り出す必要があったのか?」と。

オッペンハイマーという映画は、本人の視点はカラー映像であったり、他の視点はIMAX用のモノクロ映像で撮影されていたり、技巧的にもとても魅力がある作品です。3時間は流石に長いなー、と思いますが、実際に見てみると、息つく間も無いような編集で、あっという間の3時間と感じる映画です。

そのオッペンハイマーがなぜ、今、世に送り出されたのか?世界にとてつもないインパクトを与えた爆弾、それも日本に2個投下された事実。それから長い月日のたった今、なぜ、この映画が作られ、公開されたのか?

「オッペンハイマー」は見て後悔することは無い映画です。日本人であれば、何かを感じることは間違いありません。

なぜ、今、ユニバーサルという映画会社がこの映画を世に出し、なぜ、アメリカのアカデミー賞を決める審査員がこれを作品賞に選んだのか?

それは、「今、世界で戦争が起きているから。」と、映画評論家は答えるのではないか?と思います。改めて対岸の火事ではない、と考えさせられる作品でした。

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