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能楽、海を越える③-1【朝倉大輔 先生】公演編

宝生流能楽師にインタビュー

🌏能楽、海を越える✈️

海外公演を経験された先生方に
海外で能はどのように受け入れられているか、
公演から学んだことや気づき、苦労したことなどをお話いただきます。

また、観光編として、能楽師がおすすめする観光情報も掲載していきますので、
ぜひ今後の旅のご参考にどうぞ!

第3回目は
朝倉大輔(あさくら だいすけ)先生です。
韓国と香港での公演についてお話いただきました。

■朝倉大輔 Asakura Daisuke
シテ方宝生流能楽師
1990年、東京都豊島区出身。朝倉俊樹(シテ方宝生流)の長男。1994年入門。19代宗家宝生英照、20代宗家宝生和英に師事。初舞台「鞍馬天狗」花見(1995年)。初シテ「金札」(2015年)。「翁」千歳(2020年)を披演。

──海外公演はどの国でされましたか。
初めての海外公演は、僕が藝大生のときに行った韓国のテグ(大邱)でした。藝大の3年生と4年生だけで行くことになって、僕はシテ方なので、シテ方をやるのかなと思ったら、まさかの大鼓方として行きました。当時の藝大生の中で、楽器を組み上げることができるのが僕しかいなかったからみたいです。そのときの公演は「羽衣」でした。前々回のインタビューに登場した藤井秋雅がシテをやって、辰巳和磨木谷哲也が地謡を担当しました。

海外公演に参加させていただくことが決まって、日本人じゃない人が能をみたときにどう反応するのか、というのが気になっていましたが、実際に現地に行ってみると日本人と韓国のお客さんは感覚が違っていたことにびっくりしました。
例えば、大鼓では打つときに掛け声をかけますね。韓国では僕の掛け声が終わるたびに拍手がくるんですよ。すごくやりにくかったですね(笑)。文化が違うといろいろと感じ方が違うんだろうなと思いました。

香港には2016年から数年間、コロナ禍になるまでは年に1回ずつ公演に行っていました。そのときは一番下っ端だったので、すごく大変だったのを覚えています。
最初はお家元と木谷哲也と3人で参加しました。本格的な公演のための下準備としての期間でした。現地の日本人学校に伺ってお家元が能を少し見せる機会があり、哲也一人だけのサポートだとつらい、ということになって、急遽僕も後から行くことになりました。お家元たちは10日間、僕は9日間滞在しましたね。

〈2017年〉香港でのリハーサル風景

──海外公演をやって苦労したことはありましたか。
香港政府に提出しないといけない就労ビザがあるんですが、それを作るのが大変でした。中国では観光ビザで仕事をすると逮捕されてしまうみたいです。ちゃんと仕事をしに来ました、というビザが必要なんですよ。公演に関わる人数や、時間、場所などを全部提出しないといけなくて。
半年前に出したんですが、ビザが届いたのは香港に行く一週間前でした。僕が申請書の記入例を作ったので、それ以降、僕の書類をみんな真似しながら作っています。

お家元は台湾公演も考えていたらしいのですが、台湾は日本との国交がなく、何かあったときに外務省が助けてくれないのは困るので、国交のある香港に決まったそうです。

他に大変だったことは、荷物運びですね。飛行機に乗せられる重さは30kgで、トランクに装束を入れたら余裕で30kgは越えちゃうんですよ。「石橋」で使う牡丹の花の作り物も持って行かないといけなくて、最初はトランクに詰めて持って行きました。2回目の香港公演のときは、さすがに手持ちトランクで運ぶのは嫌だったので宅急便で送ったんです。ちゃんと届いたんですが、箱がぼろぼろで届いたので焦りました。中を確認したら無事だったので良かったです。

──香港公演では「石橋」が上演されたとのことですが、どのような理由で選ばれたのですか。
「石橋」中国の物語で獅子が登場するので、香港のお客さんにも馴染みがあるだろうということで選ばれたみたいです。また、2回目の香港公演では「石橋」に加えて「土蜘」も上演されまして、「土蜘」は蜘蛛の糸を撒くというのが見た目的にも華やかなので、選ばれたと聞きました。

韓国公演と違って、香港ではお客さんがみんな黙って観ていて、終わってからはスタンディングオベーションでした。
公演後の質疑応答では8割くらいの方が手を挙げて質問してくださいましたね。

公演出演者がポスターにサインを書きました。

──海外公演を通して気づいたことを教えてください。
言語が違いますけど、なんとなく言ってることや、やっていることは観ている人には伝わるんだな、というのが新鮮な感覚でした。
日本の方は自国の文化である以上、全てを理解しなければならない、という先入観をお持ちの方がいらっしゃると思いますが、芸術というくくりであるので、理解をしなくていい、と気楽に考えて頂きたいな、と思っております。

──先生の今後の公演情報を教えてください。
4月定期公演の午後の部で「杜若」を勤めさせていただきます。個人的には舞台上で役者全員で我慢大会をするのが好きなんです(笑)。要するに、女性がシテの演目って上演時間が長いんですよ。2時間弱くらいの演目が多くて。舞台に出させていただいている身としては、いかに長時間我慢しながらも、どれだけ優雅に見せられるか、というのが1番の着眼点だと思うので、綺麗に勤めたいなと思いますね。


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──読者の皆様に向けてメッセージをお願いします。

能は積み重なってきた歴史の重みがあるので敷居が高いと思われがちですよね。能が成立して700年近くになりますが、250年間くらいは江戸幕府によって公式行事で演じられる式楽に制定されて、一般の人が触れられないようになります。明治維新後は一般の人が見聞きできて、習うこともできるようになって、だんだんと敷居自体は下がっていると思うんです。
ただ、700年前の言語がそのまま伝わっているので、分かりにくさはもちろんあります。完璧に理解することは我々もできないし、頑張って理解しようとは思っていますけど、分かりにくさも楽しんでいただければいいんじゃないかと。分からなくていいので、出てきた人や衣装が綺麗だな、能面の表情が怖いな、とか。まずはそのようなところから能の世界に入っていただくのが良いと思います。


インタビューにご協力いただきありがとうございました!

インタビュー日時:2月17日(土)、宝生能楽堂楽屋、稽古舞台にて。




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