お稽古場探訪⑩【山内崇生 先生】三崎町敷舞台
宝生流能楽師の先生とお弟子さんに
能を「習うこと」の魅力をお話いただきます。
「能を習ってみたいけど、誰に習ったら良いか分からない。
先生の雰囲気を知りたい。
稽古場の情報を教えてほしい。」
という方はぜひご参考にどうぞ!
第10回目は
山内崇生(やまうち たかお)先生です。
三崎町敷舞台でのお稽古についてお話を伺いました。
──山内先生の稽古場情報を教えてください。
東京の三崎町の稽古場(JR水道橋駅西口・地下鉄三田線水道橋駅より徒歩4分)は月3回・火曜日の朝10時から22時半までお稽古しております。稽古時間は謡・仕舞それぞれ約20分間ずつです。
また他の地域においては大阪(柏原)・京都(五条)・名古屋(伏見)にて月2回。鳥取や島根(松江)にも行っています。
京都の同志社大学では学生に教えています。
この三崎町の稽古場は大学を卒業したての方から80代まで、幅広い方がお稽古に来られています。年配の方は朝昼夕に来られますが、お勤めの方は夜が多いです。
お仕事の終わる時間もその日によって変わるので、来られた方から順にお稽古しております。そんなに待つことはないですが、その間におさらいしたり、外でご飯を食べてきたりして、気持ちを切り替えられているようです。ご都合によっては稽古時間を譲り合われたりしているようですよ。
皆様ほのぼのとマイペースにお稽古なさっております。
──稽古場の特徴を教えてください。
稽古場として使えそうな場所を都内で探していたところ、三崎町に部屋を見つけました。もともとは麻雀のお店だったらしく、稽古場として使えるようにするために壁を全部張り替えて、板間にして防音シートを貼りました。
私だけでは家賃の支払いが大変なので、今、3人くらいにこの稽古場を借りてもらっています。利用者が増えていけばいいなと思いますので、稽古場を探している能楽師の方はぜひご連絡ください。
──お稽古で大切にされていることは何ですか。
能には多くの和歌が使われております。また、言葉がとても美しいです。これらには言霊が宿っていると思っています。また、季節の描写や古くからの伝承がたくさん織り込まれていますので、そのようなことを大事に思いながら皆様にお稽古しております。
個々のお稽古としては、皆様それぞれのペースがありますので、その時々のお弟子さんの具合を見ながら丁寧に教えることを心掛けております。
──先生の今後の公演情報を教えてください。
10月13日(金)に大阪の七宝会において、能「楊貴妃」のシテを勤めさせていただきます。
2024年12月8日(日)には宝生会特別公演において「松風」のシテを賜りました。また、3月3日に、宝生能楽堂にて崇寶会(社中の会)の30周年記念大会を致します。私は来年が初舞台から50年目の節目の年になります。ぜひご観能にいらしてくださいませ。
──これから能を習ってみたいと考えている方にメッセージをお願いします。
日本の文化・心を深めるために、またそれを思い出しに、能のお稽古にぜひいらしてくださいませ。椅子でのお稽古も問題ありません。一生できるお稽古としても魅力がありますし、喉や肺なども鍛えられて健康にも役立ちます。皆様からのお問い合わせをお待ち申し上げます。
⭐️山内先生の稽古体験やお問い合わせはこちら
■山内先生のお弟子さんにインタビュー
──お稽古を始められたきっかけを教えてください。
大学1年生のときに能をサークルで習い始めて、大学院まではみっちりやっていました。学生時代は春も夏も合宿をやって熱心にお稽古していたのですが、就職して転勤も経験し、約30年間、お能のお稽古をしないブランクの時期があったんです。
サラリーマンとしての第一の人生を卒業して、第二の人生が始まったころ、自宅中心になって生活が安定してきたので、妻にも勧められてお稽古を再開することになりました。
──山内先生のもとでお稽古を始めた経緯はどのようなものでしたか。
大学時代にお世話になった京大宝生会の仕舞担当の恩師が、辰巳一門の山内先生を支援されており、同じ大学サークルの後輩から山内先生のもとで習うのはどうかと勧められました。
当時、山内先生も私も千葉に住んでいまして、近い距離で通えて良いんじゃないかなということで山内先生に習い始めました。
30年間やっていなかったので謡の節を忘れたりすることはありましたが、仕舞の型は自然と覚えていましたね。
──先生のお稽古の雰囲気はどのような感じですか。
先生は非常にやさしくて丁寧に教えてくれます。きつく言う先生だったらやめていたと思います(笑)。
山内先生:厳しくして上手くなるんだったら厳しくしますけど、厳しくしたから上手くなるっていうわけではなくて、ちゃんとお稽古に対して忠実に向き合っていけば身についていくし、人によってのペースが違うので、それぞれのペースで楽しめたらいいと思います。
──習い続けている理由は何ですか。
能楽そのものの魅力です。能を深堀すればするほど知的な刺激を常に得ることができます。
謡曲十徳(※)という言葉をご存知ですか?謡を稽古すればこんなに良いことがあるんだよ、というのを表現したものです。
例えば、能を習うと実際にその曲の背景となる場所に行かなくても、その世界を知ることができます。(①『不行而知名所』行かずして名所を知り)
能の史跡を訪ねる「謡蹟巡り」も楽しいですが、時間とお金もかかるので、能を習って様々な世界をバーチャル的に堪能できるのは良いですよね。
私は大学サークルのOB会と地元千葉県・市の素人の能楽同好会に所属しているのですが、これらの団体との交流を継続するためには誰かに習って新しい曲を覚えることが必要でしょ。
また、7~8年前から千葉の同好会で、初心者から中級者向けの謡を中心に数人の嘱託と受け持って指導しています。私自身が山内先生にしっかり習わないと教えられないので、自分自身の鍛錬としてお稽古が必要になります。
──習って良かったことを教えてください。
能を習うと頭脳と心身の健康を保持・増進することができます。例えば、腹式呼吸や臍下丹田(丹田とはエネルギーの中心となる場所)を意識することで、上・下半身を繋ぐ大腰筋などの深層筋を鍛えることができるので、姿勢や下半身の安定に役立ちます。歳を取れば取るほど必要になりますよね。
他の良かったこととしては、私は能楽の発展の歴史に興味があって勉強しているのですが、そうすると、過去の能楽の名人達のレコードを聴いたり観たりすることによって、名人の芸の深奥を垣間見ることができます。
能楽について技能のみならず、囃子方や他流派(観世流、金春流、金剛流、喜多流)も含めて、能楽全般の鑑賞ができる機会を得られたことも嬉しいですね。
──発表会に参加されてみての感想を伺いたいのですが、まず、大学生のときに能楽サークルに入って、初めて参加した発表会はどうでしたか。
全国宝生流学生能楽連盟というのがあって、4年に1回、東京、名古屋、京都、金沢と開催地をまわしているんですけど、私が大学1年生のときはちょうど東京で開かれたんですよ。水道橋能楽堂(今の宝生能楽堂が完成する前)で仕舞と連吟をやったと思います。仕舞は初心者でしたから、たぶん「紅葉狩」で、連吟は「清経」だった気がします。
大学1年生のときに能のことを知らずにサークルに入って、6月には発表会に出ていました。初心者でしたが謡本を見ないで最前列で謡っていましたね。
──崇寶会(山内先生が主催の発表会)での発表はいかがですか。
21年前の2002年4月29日が初舞台で、素謡や「放下僧」ワキ、仕舞「玉葛」を勤めました。特に緊張はしませんでした。学生のときに慣れていた舞台で30数年ぶりに出演できたことが感慨深かったですね。
学生時代、地謡は学生だけでやっていましたが、崇寶会ではプロの先生方が地謡をしてくださるので、ものすごく舞いやすいなと思いました。私の仕舞の動きが遅れれば合わせて遅らせてくださるし、早くなってしまったら早めてくださいます。
──周りで能を習ってみようかと悩まれている方がいたらどのようにお声がけされますか。
私は学生時代に一生懸命やっていて、30年間ブランクがあってまたお稽古を始めました。こういう人もサラリーマンの中にいると思います。そのような方には、ブランクを作らず、細々でもいいから20代、30代と続けた方がいいですよとアドバイスしたいです。学生時代にやっていたなら、せっかくなのでやめないでほしいですね。
学生時代にやっていなくてこれから始めたい人は、やはり能楽は日本の古典芸能の一つでありますから、非常に良い機会なのでぜひその世界にどっぷり浸かってごらんなさいと言いたいです。後悔しないですよ。先ほども言った謡曲十徳もありますし、深堀できる楽しさもあります。特に熟年世代には、今後の心身の健康保持の面でも得策です。
まずは能楽に触れ、師事することを勧めます。長く続けられる趣味として尽きない魅力があると思います。
山内先生:能を習い始める方は50代、60代が多いですが、皆様日本の伝統に興味を持っていて、習えるなら習いたいと言って来られます。お稽古を続けていくうちに楽しいとおっしゃる方もいますし、自分には向いていないかなという方もいます。皆様最初はゼロからのスタートなので、まずは試しに一回入ってやってみて、楽しいなと思えたら続けていただけたら良いんじゃないでしょうか。
インタビューにご協力いただきありがとうございました!
⭐️山内先生の「推し面」についての記事も併せてどうぞ!
インタビュー日時:9月9日(土)、三崎町敷舞台にて。
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