お稽古場探訪②【内藤飛能 先生】湯島舞台
インタビュー記事「お稽古場探訪」では
宝生流能楽師の先生とお弟子さんに
能を「習うこと」の魅力をお話いただきます。
能を習ってみたいけど、誰に習ったら良いか分からない。
先生の雰囲気を知りたい。
稽古場の情報を教えてほしい。
という方はぜひご参考にどうぞ!
第2回目は
内藤飛能(ないとうとびよし)先生です。
湯島舞台でのお稽古についてお話を伺いました。
──内藤先生の稽古場情報を教えてください。
お弟子さんの都合に合わせて木曜日の10時から夕方の6時、7時くらいまで湯島舞台でお稽古しています。
湯島舞台は本舞台とほぼ同じ大きさなので、使用しやすく、これ程環境の整った舞台は他にはなく素敵なお舞台です。
公民館などの簡易的な場所でお稽古されている方もいますが、そうすると本舞台の大きさに慣れていないので、本番では舞が小さくなってしまうこともあります。
私は出身が名古屋なものですから、東京に稽古場のあてがなく、お家元にご相談したところ、湯島舞台を使っていいですよとおっしゃってくださいました。私が独立した2011年から、こちらの舞台をお稽古場として使わせていただいております。
私も木谷哲也先生と同じように、もともとは「宝生流謡曲仕舞教室」の木曜教室(※)を担当させていただきました。講師としては2年間で終了しまして、集まってくださった生徒さんが継続してお稽古したいと言ってくださったので、この湯島舞台でも木曜日にお稽古しております。
※「宝生流謡曲仕舞教室」木曜教室について
──内藤先生の、湯島舞台でのお稽古で大切にされていることは何ですか。
この湯島舞台では個人稽古をしておりまして、人によって進み具合が違いますので、平等になるように気をつけながら、個々に合わせた教え方ができるように心がけています。
例えば年配の方がいらっしゃると椅子に座られて、若い方は正座でお稽古されますが、たまに年配の方が「今日は調子がいいので正座でやります。」とおっしゃってくださることがあるので、「途中で調子が悪くなったら椅子に座ってくださいね。」という感じで、ご無理のない範囲でお稽古させていただいております。
──お弟子さんの年齢層は幅広いですか。
実際、習っていらっしゃるのは年配の方が多いですね。お勤めを退職されてお時間に余裕ができた方が、次は何をしようかなというときに、習い事として能をやってみることが多いように思います。
──埼玉では子どもたちにも能を教えていらっしゃるそうですね。
内弟子を卒業して7〜8年川口市に住んでいました。町内の子どもたちに教えるようになり、さいたま市に引越してからも継続してお稽古を続けており10年近くになります。
一昨年は「オール埼玉子ども能楽祭」という催しにお家元にもお越しいただいて、子どもたちに能を観てもらいました。
お子さんから年配の方まで、幅広い年齢の方が能を習うことができますので、男女問わずどの年代の人でも気軽に能の世界に飛び込んでもらいたいなと思います。
──先生の公演情報を教えてください。
2月25日(土)に夜能という催しで「鞍馬天狗」のシテを勤めさせていただきます。
今回は1月と2月の夜能が「鞍馬天狗」でして、1月は辰巳満次郎さんが「白頭」という重厚感のある特殊演出の舞台を勤められます。
私の舞台は特殊演出ではないノーマルな「鞍馬天狗」ですが、牛若丸を優しく見守る、大天狗をお見せできればと思います。
🌙2月夜能チケットはこちら
──これから能を習ってみたいと考えている方にメッセージをお願いします。
ちょっと興味があって、ご自分で下調べして、やっぱり習ってみたいなという方にとっては、能は門がひらけていますので、躊躇なく飛び込んでもらいたいなというのがあります。良く分からないけど、良いものなんだろうな、という方もいらっしゃると思うんですよね。そういったときにも、遠慮しないで、足を踏み入れてもらえたらいいなと思います。
内藤先生のお弟子さんにインタビュー
──お稽古を始める前に能に触れる機会はございましたか。
うちの家族がクラシック音楽好きだったので、朝、NHKのFMで流れるクラシック音楽を聞きながら起きるという習慣が小学生のときからありました。平日はだいたいクラシックやバロック音楽が流れているんですが、土曜か日曜は謡曲の時間になるんですよ。いつも通りにタイマーをかけて起きようとすると、朝、謡曲が聞こえてきまして。
その当時は謡曲について全く知らなくて、聞いても言葉が分からなかったのですが、謡曲を聞くのは子どものときから好きでしたね。
もうちょっと大人になってからは、父が建物を建てるのが好きで、どこかの建設会社で小さいビルを建てることになったときに、そこから明治神宮の薪能の招待券をいただいたんです。毎年いただくようになって何年も通っているうちに、非常に幻想的で不思議な感じに惹かれて、この世界は親しめそうだなというのがありました。
──お稽古を始められたきっかけを教えてください。
宝生能楽堂での狂言を友達に誘われて観に行ったときに、「謡曲仕舞教室」の生徒募集の貼り紙を見つけたのがきっかけですね。これまで和の習い事を全くやったことがなかったものですから、ちょっと謡に興味があったので、謡曲仕舞教室に行ってみようと思って宝生会に電話してみたんですよ。かなり勇気を振り絞って(笑)。ちょっと変な感じだったらやめようかなと思っていたら、事務局の方がとても親切にしてくださったのでとりあえず行ってみることにしました。実際に行ってみたら良い雰囲気だったので習うことにしたんです。
──内藤先生のお稽古はどのような感じですか。
お優しい方で、僕が本当に初心者でも手取り足取り教えてくださるし、僕が家で練習していなかったときもちゃんとフォローしてくださるので、恥をかかずに済んでいます(笑)。
先生のおっしゃることがすごく勉強になりますね。仕舞にしても、全体の流れやどこにポイントを持ってくるか、というのを教えてくださいます。
初めは、習うのは謡だけで良いと思っていたんですが、先生が「仕舞も楽しいですよ。やりましょう。」と言ってくださったので、謡と仕舞の両方をやるようにしました。
今年で習い始めて10年目くらいになります。
──習い続けている理由を教えてください。
先生がとても素晴らしいというのと、何か趣味でもなんでもやろうと思ったら、まずある程度続けないとですよね。能はまた奥深い世界ですし。
あとは、夏に七葉會という大きな発表会があって、いつも内藤先生と親しい先生方やお弟子さんとお会いする機会があるのですが、みなさんとても感じの良い方々で、能に関して真摯でいらっしゃるし、それでいて硬すぎず、いろいろなことを教えてくださって、その雰囲気が素敵だなと思うので続けています。
──内藤先生の舞台を観に行かれることはございますか。
先生がおシテのときは必ず観に行っています。
内藤先生:必ず観に来てくださるんですよ。私以外の舞台も観に行かれたりするくらいすごく熱心で。
──能を観る視点は変わりましたか。
お稽古していると、型などのいろいろな知識が入って来て、それがある意味で邪魔でもあるのですが、どうやっているのかなと見ちゃうことはありますね。
曲についても少しずつ知識がついてきますので、全く知らないで観ていたときとは違ってきます。
習ってないと分からないことはたくさんありますよね。
──発表会での思い出を教えてください。
この湯島舞台で浴衣会(※)をやったときに、すごく緊張したのを覚えています。
※浴衣会:夏に浴衣や薄手の着物を着て行う発表会のこと。
家でも何度も練習したんですけども、やっぱり節が分からないんですよね。内藤先生は子どもの頃から能に親しまれているので、先生から見ると当たり前のリズム感があるんでしょうけど、大人から習い始めた私たちから見るとなんでこうなるんだろうと疑問に思うことがあります。
楽譜と違って、謡本を見たからといって、どう謡うかは分からないんですよね。同じ節でも謡い方が違ったりするんです。記号を見ただけでは謡えないし、全く不思議な世界で。いくら真似しても、先生から、全然違いますと言われたり、先生がさらっと流したことが全然簡単じゃなかったり。
発表会前は録音をたくさん聞いて練習していました。
──お稽古をされていて良かったと感じることは何ですか。
今までにない視点で物事を見ることができたことですね。こういうふうに見たら世の中は違って見えるのか、と気づけたことはすごく良かったです。
あとは、何をやるのも実は繋がっていると思えたこと。仕事でも日常生活でも、能で知った視点や世界観がどこかで出てくると思うんです。
──周りで能を習ってみようかと悩まれている方がいたらどのようにお声がけされますか。
ぜひやってみた方がいいです!と言いたいです。なかなか経験できることではないと思います。お金もそんなにかからないと思うので、もっと気楽にできるんじゃないかと。能の世界は深くて広いですし、知らなかった世界や、美しいものに出会うというのは本当に素晴らしいことなので、ぜひおすすめしたいなと思っております。
インタビューにご協力いただきありがとうございました!
インタビュー日時:1月14日(土)、湯島舞台にて。
【おまけ話】
湯島舞台は湯島天満宮の近くにあるので、インタビュー前に内藤先生にご案内いただきながら参拝へ。
内藤先生から翁面がある場所を教えていただきました。
ぜひ湯島天満宮にお越しの際はチェックしてみてください♪
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