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能楽、海を越える⑥-1【武田伊左 先生】公演編🇵🇱ポーランド

🌏能楽、海を越える✈️

海外公演を経験された先生方に
海外で能はどのように受け入れられているか、
公演から学んだことや気づき、苦労したことなどをお話いただきます。

また、観光編として、能楽師がおすすめする観光情報も掲載していきますので、
ぜひ今後の旅のご参考にどうぞ!


第6回目は
前回に引き続き武田伊左(たけだ いさ)先生にお話を伺いました。
ポーランドでの公演についてご紹介いたします🇵🇱

■武田伊左 Takeda Isa
シテ方宝生流能楽師
平成2(1990)年、東京都文京区生まれ。武田孝史(シテ方宝生流)の長女。2000年入門。19代宗家宝生英照、20代宗家宝生和英に師事。初舞台「草紙洗」子方(2000年)。初シテ「吉野静」(2013年)。


──ポーランドではいつ公演されましたか。
2022年の秋あたりからポーランドで公演ができたら良いですねという相談を鹿島建設の方としていました。ご尽力いただきまして、その後2023年1月にウクライナ避難民の支援を能公演による文化交流で実現しようということになり、その実現に向けてプロジェクト準備がスタートし、6月の中頃首都ワルシャワでの3つの公演を実施することができ、各方面からご好評のお声を多くいただきました。

海外公演にしては準備期間が短かったのですが、鹿島建設様に入っていただいたことでスムーズに交渉が進み、関係者一同全力で力を併せて準備をしました。

デンマーク・スウェーデンでの活動と同じく、1度きりのプロジェクトで終わらないように中長期的にポーランドでの活動を続けていけるようにしたいと思っています。2023年の活動で協力していただいた方を通じて、2025年の1月にはワルシャワの大学やクラコフの美術館にて講義やワークショップを開催させていただく予定があります。

このようなご縁を大切にして、ポーランドの地でも一方的な能楽普及ではなく、それぞれの土地に寄り添った形で能楽の魅力を発信することを続けていきたいと思っています。


──ポーランド公演は、前回のインタビューでお伺いしたデンマークやスウェーデン公演と比べて何が違いますか。
今回のポーランド公演では鹿島建設様が主催として全面的にご支援くださいました。航空券や宿泊先の手配など事務的なことや食事や観光といった細やかなところまで提案やアテンドをしてくださったので、私自身はより一層舞台に集中することができました。

初めて伺う土地でしたが、事前に色々な状況や求められているものを現地の方々から伺うことができ、また現地にいらっしゃる能楽に精通している方からも多方面で協力していただき、準備期間は短かったですが、大反響のある大きな公演を成功することができました。

主催や共催や協力者の方々とオンラインや対面でコミュニケーションを取りながら、「ウクライナからの避難民の方への支援」「ポーランドと日本のつながり、結びつき」をテーマに今回の公演を企画しました。

ヤクブ・カルポルク氏がポーランド語での通訳や各公演での解説を担ってくださったこと、能の舞台にも精通してらっしゃることから舞台作りもお任せできたことも、準備期間が短い中で成功できた秘訣だと思っています。

解説のカルポルク氏
ワルシャワ宝生流能公演
国立劇場、Boguslawski Hall


──公演の内容を教えてください。
3公演を実施したのですが、それぞれにお客様となるターゲット層が違ったため、それぞれに内容を変えて実施しました。

まずは初日のウクライナ避難民の方をご招待してのポーランド劇場での公演は、ワルシャワ市と在ポーランド日本大使館と相談しながら詳細を決めました。

2023年6月16日
ウクライナ避難民のための公演
ポーランド劇場、舞囃子「岩船」

隣国であるポーランドは戦火を逃れ避難してくるウクライナの方々を多く支援していました。男性の多くは戦場へ行っているため、避難民の多くは女性や子供たちでした。

慣れ親しんだ土地を離れ、大切な家族とも離れ離れ、そのような方々の心にどのように寄り添えるか…能は「天鼓」という曲を披演しました。

ポーランド劇場、能「天鼓」

権力者によって搾取された命、権力者側も自分たちの間違いを認め弔うことで、その命は戻らないが、その心は成仏し、最後には喜びの舞を見せるという内容の曲を選びました。

ストーリーもわかりやすく、後半で見られるシテの軽やかな『楽』という舞の音楽性や舞踊性は言葉の壁を超えて楽しんでいただけたというお声をいただきました。

伊左先生「避難民招待客の中には
子供たちが多くいらっしゃいました。」


──他の公演についてはいかがでしたか。
毎年6月に開催される日本祭りにも出演いたしました。ヨーロッパ各地で日本祭の開催は耳にすることが多いですが、特にワルシャワの日本祭は毎年多くの来場者数を誇る大きなお祭りだそうです。

屋外ステージでは舞囃子「加茂」を、屋内のステージでは袴能(※)「小袖曽我」を抜粋して披演しました。
※能面、能装束を用いず、紋服、袴姿のままで一番の能を演ずること。

2023年6月17日
日本祭
会場: SDK(Służewski Dom Kultury)
屋外会場、舞囃子「加茂」

屋外ステージではダイナミックな舞を、屋内ステージでは兄弟が相舞を魅せるシーンのある分かりやすい曲を選曲しました。

室内会場、袴能「小袖曽我」

屋内ステージは150席ほどという客席数に限りがあり、すぐに満席になってしまったため開演までの時間で何人ものお客様にお断りをする事態に。次の機会があればこの時に入れなかった方々にもぜひご覧いただきたいと思います。

──ワルシャワ国立劇場でも公演されたと伺いましたが、どのような内容でしたか。
日本とポーランドの友好関係を能「乱」という曲を通して表現しました。「和合」というシテの猩々が二匹登場する特殊演出で父(武田孝史)と一緒に勤めさせていただきました。

2023年6月18日
ワルシャワ宝生流能公演
国立劇場、Boguslawski Hall
能「乱 和合」

普通、二匹の猩々は同じ赤の装束で登場しますが、お家元からのご提案で、壺折(※)の部分を赤ベースと白ベースにしました。 日本の国旗も白地に赤で、ポーランドの国旗も赤と白ですので、どちらがどちらと決めるわけではありませんでしたが、その二匹を両国に準えて表現しました。

※壺折(つぼおり): 装束の着方のひとつ。表着である唐織などの裾を膝上ほどの高さにし、両衿 を胸の前でゆったり湾曲させた着方。

もう1曲、能「杜若」(シテ 大友順)の後半も披演し、優美な舞もご覧いただきました。能の中でもこの公演では特に舞に着目してご覧いただく内容にしました。

能「杜若」 抜粋
国立劇場、Boguslawski Hallの様子
多くの方にお越しいただきました。
今回のプロジェクト立ち上げからご協力いただきました 
鹿島建設 副社長海外事業本部長 
越島啓介様



──公演情報を教えてください。
・「能へのトビラ 夏」
令和6年9月14日(土)14:00開演(13:00開場)
於:青葉の森公園芸術文化ホール
入場料:一般1,000円/学生無料
→能「天鼓」の一部上映 シテとして出演。
※別途体験ワークショップあり(HP参照)
チケット発売中!!
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・「九月宝生会定期公演 午後の部」
令和6年9月21日(土)15:30開演(14:30開場)
於:宝生能楽堂
入場料:一般5,500円/学生2,750円
→能「殺生石」のシテとして出演。

▼チケット発売中✨


──読者の皆様に向けてメッセージをお願いします。
まだ数は多くはありませんが、国内外問わず企業、大学、サークル、個人の方など様々なところから能楽の公演やワークショップの企画のご依頼をいただくことがあります。
能楽の世界が1回でも多くの場で一人でも多くのお客様の目に触れる機会をいただけるということはとても大切なことだと思います。
まずは知ってもらう、その魅力に触れてもらう、そのような場を増やしていきたいと思っています。

なんでもOKというわけではないので、できないことはお断りすることもあるかもしれませんが、何か能楽に関する企画をされたい方がいらっしゃいましたらば、規模や予算の大小問わずぜひ一度ご相談いただけたら嬉しいです。

一緒に能楽の魅力を発信してくださる団体や個人の方ぜひご一報をお願いします!


※写真は全て鹿島建設様からご提供いただきました。ありがとうございました!


こちらの記事も併せてどうぞ♪

■能楽、海を越える
【公演編】デンマークとスウェーデンでの公演について🇩🇰🇸🇪

【観光編】デンマークのおすすめの場所について


■伊左先生の稽古場について


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