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読書記録「痴人の愛」

こんにちは。今回は、久しぶりに読書記録をつけていきます。
今回は「痴人の愛」です。


あらすじ

「痴人の愛」は、谷崎潤一郎によって書かれた文学作品です。
1924年から連載が始まり、翌年7月に単行本が刊行されました。

主人公の譲治は、町のカフエエで拾ってきた小娘ナオミを自分の好むタイプの女に教育し、あわよくばこれを未来の妻にしようと思い立つ。そのナオミがいつしか猛々しいまでの淫婦に成長して、その魅力の前に逆に主人公を屈服させるというのが『痴人の愛』一篇のプロットである。

「痴人の愛」新潮文庫 p439より

真面目なサラリーマンの譲治が、カフェエで15歳の少女ナオミを拾います。譲治は彼女を自分好みの女に育て上げようとしていくのですが、徐々に彼女の魅力に溺れていき…。という話です。

谷崎潤一郎氏の代表作の一つなので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

手に取ったきっかけ

私は、先週末にこの本を購入しました。

書店の文庫本コーナーへ行き、何か面白そうな本はないかなーと眺めていました。すると、真っ赤な表紙がチラリとこちらを見ていました。吸い込まれるように手にすると「痴人の愛」というタイトルが書かれていました。聞き覚えがあるタイトルだったので、ピンときました。

元々「谷崎潤一郎」という名は、歴史の授業で何となく聞いたことがありました。加えて、先日読んだ本「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」でもこの本について言及があったので、「痴人の愛」は私の中で印象が強い本だったのです。

そういうこともあり、購入しました。
ちなみに、私はもう一冊買いました。「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」です。・・・今考えると、この二冊は同じ恋愛小説ですが、内容の落差がすごいです…。何故同時に買ったんだ。


ここから先は感想です。
ガンガンネタバレしていきますので、注意です。
この作品は無知な状態で読んだ方が絶対に面白いので、是非読破後に私の感想を覗いてみてください。


感想 ※ネタバレあり

赤い表紙と帯からも、ただならぬ雰囲気を感じる。

感想を一言で言うと「気持ち悪い」これに尽きる。
悪口ではない。深い深い、心の底をなじるような気持ち悪さがあるのだ。

まず、物語の起承転結が秀逸だ。物語の最初の方はまだ美しい、そして可愛い幸せな関係性が描かれている。譲治とナオミは少女とおじさんのような関係性で、一緒に出掛けたり、服を買ったりして、楽しそうな生活をしている。
ただ、この時点で疑問に思うところはあるのだが。「若い娘を育てて理想の女にする」という考えを持っている時点で「この人やばっ」と思ったし、どうやら恋人でも夫婦でもない二人の関係性が引っ掛かってしょうがなかった。現代と大正時代の倫理観の違いなのか。

ナオミは徐々に成長していく…わがままで傲慢な性格になっていくのだ。譲治は少しずつナオミの能力に見切りをつけていくのだが、逆に彼女の肉体に惹かれるようになる。彼女が持つ魔性の魅力、それに段々と堕ちていく様は読んでいて気持ちのいいものではなかった。
この文学は、心の黒いところを永遠に抉ってくる気持ち悪さがある。自分の中のドロドロしたものまで見ている気分になる。

物語が進むにつれて、ナオミは色々な男を周りに侍らすようになる。ここら辺から徐々にナオミの悪女気質が露わになっていくのだ。この後は色々なことがあるので、省略する…

ラストシーンにだけ言及させてほしい。
他の男に浮気していたことがバレ、譲治と破局したナオミ。譲治はナオミとの思い出を断ち切ることを決意する。しかし、ある日を境にナオミは再び譲治に会いに来るようになる。
ここのナオミの描写にとても引き込まれた。しばらく譲治のもとを離れていたうちに、ナオミは持ち前の美貌に磨きがかかり、最高級の女性になっていたのだ。谷崎氏はナオミの容姿を「白」を巧みに使い読者に伝えている。

次には前にも云う通り、その肌の色の恐ろしい白さです。洋服の外へはみ出している豊かな肉体のあらゆる部分が、林檎の実のように白いことです。

「痴人の愛」より

どうやったらこんな美しい表現ができるのか…素晴らしすぎる。

ナオミの魔力に再び屈した譲治は、奴隷のような存在になることを条件として呑み、ナオミとよりを戻すことになる。
その後の様子が少し描かれて、この話はお終いだ。

この終わり方が、気持ち悪さを倍以上に高めた。最初は真面目なサラリーマンだった譲治が、ナオミという存在によって堕落していく…その流れが中々なものだった。
この後も、我々読者が知らないところで、譲治はナオミに依存しながら生きていくのだろう。何だか哀れに思えてならない。ただ、それが本人の望みなのだから…外野は何も口出しできないな。

ラストにはこのような文が書かれている。

これで私たち夫婦の記録は終りとします。これを読んで、馬鹿々々(ばかばか)しいと思う人は笑ってください。教訓になると思う人は、いい見せしめにして下さい。私自身は、ナオミに惚れているのですから、どう思われても仕方がありません。

「痴人の愛」より

―笑えなかった。
この本を読む中で、継続的に気持ち悪さを感じていた私だが、作中で妙に親近感を覚える感情に出会うことがあった。今までの自分の人生を思い出した。譲治の生き様は他人事ではない。どこか自分にも当てはまる節があるのだ。・・・それがまた、自分の悪い部分を引きずり出されたようで、気持ち悪かった。

全体を通して、譲治とナオミの立場が逆転していく様子が印象的だ。そもそも譲治がナオミを引き取った理由は「理想の女に育て上げること」つまり自慢できる女にすることだった。それがいつしか、彼女に屈服してまでそばにいたいと思うようになるのだから、壮絶だ。

読んでいる最中も、読み終えて読破感に浸っている時も、気持ち悪さが抜けなかった。この作品は、ずっと私の心をむしばみ続けるような気さえした。

臨場感がある作品だった。譲治と共にその数奇な運命を辿る経験ができた。少し長い話ではあるが、とても満足した。事前知識が無い状態で読んで、本当に良かったと思う。

これはあくまで私の感想だ。読者それぞれ抱く思いは違っていていいと思う。皆さんもこの作品を読んで、是非何かを感じてほしい。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

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