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多様性を組織の力に換えるための20冊

ある大手金融グループの皆さん向けに「「聴く」ことからはじまるDEI~多様な意見に耳を傾け、想いを受け止める力~」というタイトルで講演をしました。DEI推進を通じて新しい価値の創造に加えて多様な視点からリスクの芽に気付くことができる、というメッセージを届けたいと伺い、講演内容はその考えに沿って組み立てました。(「女性活躍」と打ち出すと、自分は関係ないと解釈してしまう従業員が一定数いらっしゃるとのこと。)

そこで、DEIがなぜ大事かという話は少なめにして、どういう行動を通してDEIが進み成果につながるか、を中心にお話ししました。

講演の目次です

お陰様で講演は好評だったようです。社内向けに講演録画を1ヶ月だけ公開する予定だったのが、年単位で期間延長したいと言っていただきました。良かった!

併せて「参加者向けに本を勧めて欲しい」と事務局の方に言っていただき、猫にマタタビ、篠田に選書、ってな具合で、講演内容と紐づけつつ楽しく選んだら20冊に。

選書リストをここに公開します。一言コメント付きです。


聴くこと(3冊)

自分とは異なる背景の人の考えに触れるには、まず「聴く」ことから始めなければなりません。ダイバーシティーは多様な人々が組織に「いる」状態ですが、「いる」だけで各々が別々のフロアにいて交流がなければ意味がない。互いに刺激し合うことが必要です。刺激し合うには、まずお互いの価値観が異なることを受け取る必要があります。(参考記事)「聴く」とは、自分の考えをいったん傍において、相手の意図を受け取ろうとする態度です。

LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる ケイト・マーフィ

聴くことが個人と社会にとってどのような意味があるか、さまざまな角度からつづられている。
英語版を読んだ時の感想をnote に書いた。日本語版の話なんて全く影も形もなかった頃だ。その後ご縁が繋がって監訳者として関わった(「監訳者はじめに」)。コロナ禍の最中に出た影響か、多くの方に手に取っていただいた。

まず、ちゃんと聴く。 コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比 櫻井 将

聴くこと 「聴く」「伝える」を細かくロジカルに説明している。主に管理職が職場で直面する困りごとを扱っている。「LISTEN」が聴くことのwhat と why をストーリーとして扱っているのに対し、本書は what と how をロジカルに説いているのが特徴だ。私が「聴く」ことに関して語ることのネタ元はだいたいエール代表の櫻井さん、すなわち本書の著者だ。私のfacebook 投稿もご紹介しておく。巻頭言も書いた。

こころの対話 25のルール 伊藤 守

聴く、聴いてもらうことは私たちにどんな意味があるか、平易かつ網羅的に伝えてくれるロングセラー。私が「聴く」ことに関心を寄せるきっかけになった本。感想をnote に書いており、各所でプレゼントしている。

考えること(2冊)

聴いて、自分とは異なる視点を受け取ったら、それを材料に「考える」必要があります。受け取っただけでは、さまざまな意見がゴロゴロと並ぶだけです。多様性が活かされているとは言えません。「考える」ことと、次のセクションの「対話」は密接に繋がっています。

考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門 梶谷 真司

「考える」を促す哲学対話という手法を解説している。「問う」「考える」「語る」「聞く」の4つで成り立つ。私の感想はfacebook に投稿した。

論理的思考とは何か 渡邉雅子

日米仏とイランの作文教育を長年研究し、論理的思考にはいくつもパターンがあること、課題によって適切なパターンを選べると良いことを示している。本書の元になった研究を紹介した記事に接し、感想をfacebook に書いたのが2017年。以来、著者の渡邉雅子さんの論考をずっとフォローしてきた。やっと新書が出て多くの方にご紹介しやすくなって嬉しい。

対話(2冊)

対話は「聴く」「考える」「語る」を重ね、人々の波長が揃っていく営みです。闊達に意見を言い合う状態は、必ずしも対話とは言えないかもしれません。参加者が全員言いっぱなしで、誰も聴いてないし考えてもいない、ということだってあり得るからです。対話を通して、多様な意見を受け取り活かすことができるようになります。

対話と決断で成果を生む 話し合いの作法 中原淳

日本の職場で対話と決断を実践する、わかりやすい手引き。

ダイアローグ――対立から共生へ、議論から対話へ デヴィッド・ボーム

対話に関する定本。著者は量子力学の研究者であり、社会運動に強い関心を寄せていた。対話を論理面と感覚面双方から詳説している。

マネジメント・組織(5冊)

一人ひとりが聴き、考え、周りと対話を重ねることは、個人やチームのパフォーマンスが上がるのは想定できるでしょう。しかし経営にどう寄与するのでしょうか?成果につなげるには何が必要でしょうか?聴く・対話・経営の繋がりを理解する助けとなった5冊を紹介します。

企業変革のジレンマ 「構造的無能化」はなぜ起きるのか 宇田川元一

組織の危機ではなく「慢性疾患」の分析と対応を論理的に積み上げている。「経営とは変革であり、変革とは対話である」「対話とは、他者を通して己を見て応答すること」。私の感想はnoteに書きポッドキャストでもお話ししている。どちらも暑苦しい。私が考えてきたことをここまで言語化してくださって感謝をどう表現したらいいか…という空回りする熱意のせいだ。

鬼時短―電通で「残業60%減、成果はアップ」を実現した8鉄則 小柳 はじめ

一見すると軽く見えるが、極めて本質的な対話による組織変革の実例。著者は会計士でもあり、最後に内部統制にまで言及している。「企業変革のジレンマ」の実践編のように私は感じている。

集団浅慮ー政策決定と大失敗の心理学的研究 アーヴィング・L・ジャニス

集団の結束力が強すぎると「浅慮」に陥り大失敗を犯すことを歴史を通じた事例と心理学の分析から説いている。米国で40年前に出版され、日本語版は2022に出た。

組織の盛衰 堺屋太一

日本の歴史を通じた、組織の生成から滅亡までの事例を分析している。現代にも多くの示唆がある。日本の組織を歴史的に俯瞰した数少ない良書。facebookに感想を投稿している。

THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法 ダニエル・コイル

「人間」という生き物の持つ性質に立脚するとチームのあり方は私たちのこれまでの常識とこんなに違うのか、と視界がひらけた。組織で働くひとの、基礎教養、必修科目にしたい。本書の感想を書いたnote取材記事トークセッションなど、各所でご紹介している。好きすぎる。

人間の挙動を理解する(5冊)

多様性を活かすということは、一人ひとりの内面の違いを組織の力に換えようとすること。であるならば、人の内面はどのような挙動をするのか、深い理解が欠かせません。組織と仕事における人の心理に関する5冊を紹介します。

恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす エイミー・C・エドモンドソン

「心理的安全性」というキーワードが流布しているが、誤解も多い。心理的安全性の概念を打ち立てた第一人者による一般向けの解説書。心理的安全性を語るなら、まずこの本を読んでほしい。初めて原著を読んだ感想のfacebook 投稿(帯の推薦の言葉のもとになった)、感想をインタビューで述べている記事もどうぞ。

THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す アダム・グラント

これまでは「専門知識、ゆるぎない信念」が知的とされてきたが、これからの時代は「無知を自覚し、柔軟に発想を変える」ことが知性の表れとなる。学ぶこと、リーダーとしての姿勢をアップデートできる。私の感想はこちらのnoteにみっちりと書いた。

モチべーションの心理学-「やる気」と「意欲」のメカニズム 鹿毛雅治

モチベーションがわくとはどういうことか、周りが働きかけると動機づけできるのか…。外発的動機と内発的動機は二項対立ではなくグラデーションであることなど、このコンパクトな本から私は多くを学んだ。講演や取材で引用することも少なくない。(logmiエールのオウンドメディア記事

EQ: こころの知能指数 ダニエル・ゴールマン

IQが高くてもリーダーとしては成功しない。鍵は「感情知性」(EQ)にある。自分の感情を把握し、感情が暴走しないように適切にコントロールする。すると、他者の感情を受け取って対応できるようになる。組織において「感情」を推進力にするなら、必読の書。

あなたの人生の意味 デイヴィッド・ブルックス

「社会的成功を目指す私たち」、「人徳を磨き、善き人であろうとする私たち」、2つの面は補完関係にある。2つを相互に高め合うにはどう生きるべきか、アメリカの歴史上の人物を例に挙げながら説いている。私の感想はこちらのnote にみっちりと書いた。

仕事とプライベートのせめぎ合い(3冊)

DEIにおいて、仕事とプライベートのせめぎ合いは重要テーマのひとつです。今回の講演では扱いませんでしたが、完全にスルーするのは違うなと思いました。そこで「女性活躍」「無意識バイアス」といったど真ん中のテーマを避けつつ、本質的な問題提起がなされている本を選びました。

デュアルキャリア・カップル ジェニファー・ペトリリエリ

世界各国の共働きカップル100組を学術的に分析した本。カップルになった頃から引退後までの長い年月における難所を3つに分け、どう乗り越えるべきかを説いている。私が書いた日本語版序文は、全文が公開されている。

仕事と家庭は両立できない?:「女性が輝く社会」のウソとホント アン=マリー・スローター

現代社会で「両立」は、本当の意味では難しい。なぜなら社会の尺度が「競争」の結果に偏重し「ケア」を軽んじすぎているから。研究者として、またホワイト・ハウス高官として活躍した著者が、子育てとの両立の苦労を真正面から語り、社会として目指したい「両立」とはどのようなものか、考察している。
facebook に感想を投稿した。本書の日本語版解説も書いた。

新書版 性差(ジェンダー)の日本史 国立歴史民俗博物館

現代日本で根付いている男女の役割分担意識は、本当に「伝統」なのか?弥生時代から現代まで、ジェンダーの切り口で日本史を振り返った国立暦民族博物館の企画展の内容をコンパクトにまとめた本。facebookにもちょこっと感想を書いています。

今日は、以上です。ごきげんよう。

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