前川ほまれさん「セゾン・サンカンシオン」は多くの人に届いてほしい
昨年読んだ小説のなかでも、ひときわ心に残ったのが、前川ほまれ先生の「セゾン・サンカンシオン」(ポプラ社)でした。多くの人の心に、きっと刺さる作品なのではと思っており、今回noteを書くことにします。
さまざまな依存症を抱える女性が共に暮らし、回復に向けて歩む場所、それが「セゾン・サンカンシオン」。この小説は五章、そしてその章終わりに挟まれる四幕で構成されていますが、まず章ごとに主役が変わります。一方、四幕のほうにはある「仕掛け」が施されているので、読んでみて確かめてください。
「依存症」と聞いてあなたはどんなことを想像するでしょうか。私には関係のない病気? それとも、もう罹っていて自分のことかと思った? この小説はおそらく前者の方には依存症への正しい理解を、後者の方には回復への糸口を見つけるきっかけになるのではないかと思います。
第一章「夜の爪」だけ、細かく感想を書いていきますね。
「依存症は本人の甘えから発症するものだから、本人が強い遺志を持てば治るものだ」と、私は思いがちだったりします。それはおそらく、依存症当事者本人であっても、そのように思って、自分を責めてしまいます。
一章の主人公、千明もそのように考えていますが、塩塚は千明にそれは違うと語ります。
母と同室になる予定の女性、パピコもまた大きな問題――アルコール依存症やリストカット癖を抱えています。でもその背景には、根深い家族との問題がありました。それが明かされていくにつれ、千明は、母と同じく軽蔑の目で見ていたパピコを、また別の視点からとらえ直すことになります。
二章から四章までもざっと紹介します。
小説「セゾン・サンカンシオン」を読む中で、物語が突き付けてくる「痛み」に、何度か目をそむけたくなりました。一章読むごとにエネルギーを消費する感覚があり、早くは読み進められないのです。その代わり、読んだあとは、長い距離を苦しい息継ぎをしながら泳ぎ切ったように思えました。
章の終わりごとに挟まれる各四幕「#1 新世紀の彼女」「#2 はんぶんこ」「#3 紙の花」「#4 寂しい場所」について、そして「第五章 三寒四温」について、ここでは紹介をあえてしません。紹介することで、読む人の楽しみや驚きを奪ってしまいたくないからです。
この物語は、手に取ることのできる人をそもそも選ぶかもしれない、それほど重たい側面のある物語です。けれど、少しずつ冬から春に季節が近づくときのように「三寒四温」のペースで、依存症当事者は回復に向かっていくのだと、この物語のタイトルはそう教えてくれているようです。
当事者の自覚がある方も、そうでない方――依存症は甘えだと信じている方も、ぜひ手に取って、ご自身の「依存症へのまなざしのありかた」が変わる瞬間を感じてほしいです。
前川ほまれ先生の、好書好日インタビューも、載せておきます。