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片道40万円のファーストクラスに間違えて乗った話
ファーストクラス。
それは、夏の終わりの線香花火のような、美しくも儚い夢の一時。
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この記事は、ふとしたきっかけでファーストクラスに乗ることになった経緯をまとめたものだ。
興味のある方は読んでみてください。
ある夏の出来事
2019年8月末。
夏の繁忙期の仕事に追われ、疲労困憊だった私は、8月末に取得した遅めの夏休みを心待ちにしていた。
目的地はバリ島。
ハネムーンで訪れる方も多いバリ島を、一人旅で訪れる計画を立てたのが7月中旬。
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なぜ一人旅なのかは、あえて言うまでもない。
お盆の時期は航空券が高騰するのだが、少し遅めに夏休みを取得することで、航空券を安く抑えられる。
繁忙期に入る前に全ての準備を終わらせる計画性。それが自分の強みだ。
航空券をスカイスキャナーというサイトで物色し、手頃な価格、良い時間帯のチケットを探し求める。
このサイトを使えば、様々な航空券を比較検討できる。海外の通貨で表示されたりもするが、お得なチケットを見つけられるのはありがたい限りだ。
しばらくサイトを探していると、往路と復路共に非常に良い時間帯で、値段も合計4万円とお手頃なチケットを見つけた。
他の時間帯は6万円や8万円なのに、なぜかこれだけめちゃくちゃ良い条件で4万円。
これは即買いだと思い、その場で直ぐに購入する。こうした決断力も自分の強みだ。
当時はほぼ新卒だったので、それほど十分に資金があるわけでもない。ただ、それでも旅は好き。経験や思い出に投資するのが好きなのだ。
だからこそ、手頃な値段で良いものが取れた時ほど嬉しいものはない。
バリ島の景色に想いを馳せ、心の中で軽くスキップしながら、その日はパソコンを閉じたのだった。
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夏と財布の終わり
それから1ヶ月間はまさに怒涛。
教育関係の仕事をしていたこともあり、夏休みに向けて様々なイベントが日々行われる。
暑さに負けないくらい熱い心で、日々全力で仕事に向き合っていた。
バリ島の美しいビーチに想いを馳せる時間などなく、航空券は遠く記憶の彼方へと飛び去って行った。
その後も無心で働き続け、なんとかお盆を乗り越える。もう少しで夏の終わりだ。
そんなある日のこと。
日々日課としていたメールチェックを行なっている時、見知らぬ会社からメールが届いていることに気づく。
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「ん。なんだこのメール。スパムか?」
「リンクとか踏まなければ大丈夫だろうから、中身だけ一応チェックしておくか。」
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「ん?ファーストクラス?何の話?」
「詐欺にしては個人情報めちゃくちゃ正確に書いてあるし、なんだか怖いなこれ。今時の詐欺メールってここまで進化しているのか」
「しかもアルファードで送迎とか、御曹司か何かをターゲットにしたフィッシングメールか?」
やたらとしっかりした詐欺メールだったので、気になって読み進めてみた。
するとそこには、アルファードでの送迎、空港での無料ラウンジ利用など、数々のサービスを紹介する内容が。
<サービスの例>
・無料ラウンジ利用
・滞在中は現地で送迎車や移動用の車に乗れる。
・パジャマが支給される。サイズも選べる。
・ビザ取得など、諸々を代行してくれる。
・10種類を越える料理から、食事を選べる。
(例)子羊ロース肉のロースト、彩り野菜添え、ローズマリーの香るソースと共に
(例)野菜と鴨胸肉のタイ風レッドカレー、ジャスミンライス添え
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事前に希望する料理を選択して欲しいとも書いてある。日付は8月末。目的地はバリ島。搭乗は三日後だ。
この辺りから、顔色と雲行きが怪しくなってくる。
「おかしいな、そういえば俺がバリ島に旅行に行く日付と同じだ」
「時間帯も行き先も同じってどういうこと」
そう、この時にはもう薄々気づいていた。
ただ、認めたくなかっただけだ。
お財布に余裕がなかったからこそ、間違えてファーストクラスの航空券を手配してしまったと認めたくなかっただけなんだ。
「フハァッ」
メールを読み終え、一抹どころか百抹の不安を胸に抱え、航空券の手配を行なったクレジットカードの明細をネットで確認する。
すると、あることに気がついた。
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月々の請求金額は大体一定の数値に収まることが多いものだが、8月の請求額がおかしなことになっている。
見たことのない額の請求が掛かっており、確認のために詳細に進むことに。
下へ下へとスクロールしていくと、そこに一箇所だけバグのような数値があった。
航空券:40万円
ん?40万?目の錯覚か何かか。
この時、不安は確信に変わっていた。
自分は航空券の金額の桁を見間違えていたのだ。
計画性と決断力が自分の武器だとするならば、自分の弱点もある。それは、こうしたミスを時折やらかすことだ。
仕事において大きなミスをしたことはない。しかし、プライベートなど気の抜けた状況だと、訳のわからないミスを犯したり、記憶から何かが抜け落ちたりすることがある。
念の為、航空会社のキャンセルポリシーを確認する。
「キャッシュバック、キャンセル不可です。」
それはそうだ。三日前にキャンセルしてお金が全額帰ってくることの方が珍しい。
色々な意味で夏が終わったのだが、こうして自分はファーストクラスに乗る覚悟を決めたのであった。
ファーストな人間になりたくて
ファーストクラスに乗るために必要なこと。
それは、ファーストクラスにふさわしい人間になることだ。
覚悟が決まれば行動は早い。
まずはAmazonで、ファーストクラスに乗る人の習慣という本を注文する。
行動は早く、思考は浅い。
本によると、ファーストクラスに乗る人は、フライト中に読書をしていることが多いとのこと。
だとしたら、本を持っていくしかない。
バックパックにそれっぽい本を次々と詰め込んでいく。
こうした準備とイメトレをしていく中で、ファーストクラスマインドを育めたことは良かったと思う。
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初めての執事
そうこうしている間に、搭乗当日。
成田空港に着き、チェックインカウンターを目指す。
それまで預かり知らなかったことだが、ファーストクラスはチェックインカウンターから異なるようなのだ。
空港のフロアにいたスタッフの方に、
「すみません、ファーストクラスのカウンターはどこですか?」
と一言尋ねる。
当時は今以上に若造だったので、職員の方も突然の質問に怪訝な顔。
「ええと、あちらになりますが、どなたかご搭乗されますか?」
「僕です」
「えっ?はっ?あ、左様でございますか!チケットを念の為確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
チケットを見せると、チケットと自分の顔をそれぞれ二度見る職員さん。
御曹司か、王族の子かと思ったのだろうか。
「搭乗の際は個別にお呼びいたしますので、ラウンジでお待ちくださいませ。最初の搭乗と最後の搭乗どちらがよろしいですか?」
どうやら、ファーストクラスは、手荷物検査や身体検査も別の場所で行うらしく、搭乗タイミングも他の人の目につかぬよう、最初か最後を選択できるらしい。
「では、最後でお願いします」
他のファーストクラスの乗客なども見てみたいと思ったので、最後に搭乗する事を決めた。
搭乗時間まではラウンジでご自由にお過ごしくださいとのことだったので、朝ごはんをいただくことにする。
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成田空港のラウンジを使ったことのある方ならご存知かと思うが、大変に快適で過ごしやすい。
しばらく優雅なひと時を過ごしていると、搭乗時間が近づいてくる。
すると目の前に、漫画などで見たことのある執事のような方がやってきた。
「〇〇様。ご搭乗のお時間になります。」
大変丁寧にお出迎えいただき、執事のような方の後ろに続いてラウンジを後にする。
個人的な心がけとして、こうした会話の中でも背筋を正し、艶やかな声で反応するように意識はしていた。
一体どのような世界が待ち受けているのだろうか。
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ついに機内へ
ラウンジを後にすると、今まで入ったことのない手荷物検査場に通される。まるでテーマパークの優先入場のように、ノーストレスでどんどんと通過することができる。
待ち時間という概念もなく、体感時間としては一瞬で搭乗口にまで辿り着いた。
最後の搭乗ということもあり、周りにはすでに誰もいない。これならVIPの人も安心だろうなと感じる。
そのまま搭乗口を通過して、ついに機内へ。
同じファーストクラスに乗る人たちの顔などは十分には見えなかったが、中には新婚旅行のような方たちもいた。
利用者にはそうしたニーズもあるのだろう。
席に通されると、まずはその広さに驚く。
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通常の座席スペースの二倍以上あり、横になることも十分可能。
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席に着くとすぐにウェルカムドリンクとウェルカムキャビアがやってきた。
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恥ずかしながら、この時生まれて初めてキャビアを食べることとなった。味わいとしては、それほど塩も強くなく、個人的にとても美味しいと感じた。
上記の写真のどら焼きのようなものと、サワークリームのようなものを組み合わせて食べた。食べ方が合っているのかはわからない。
しばらくすると、CAさんが席の横にやってくる。
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機内の注意事項に加え、通常より豪華なアメニティを手渡してくれ、スリッパとパジャマにお着替えくださいとのこと。
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ファーストクラスではパジャマが配布され、それを着てフライト中過ごすことができる。持って帰ることも可能だ。
他にも、良い香りのするスキンケアグッズ、シャンプー、高価なヘアブラシなども揃う。
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確かシャワーもあったような気がするので、長距離フライトでも快適に過ごせるだろう。(記憶が曖昧)
ちなみに、このヘアブラシとスリッパは今でも使っている。
着替えが終わると、今度はシェフの方が座席横に到着。
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丁重に歓迎されたのち、事前に選択していた食事メニューで問題ないか確認が入る。
問題ないですと伝えると、シェフの方は深々とお礼をして戻って行った。
ちなみに、その後に提供していただいた料理は以下のような感じだ。
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自分はお酒が弱いので飲まなかったが、お酒のメニューも豊富にあった。
料理を楽しんだ後は、本に書いてあった通りひたすら読書をする。
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フライト時間はわずか6時間だったが、貴重で思い出深い体験となった。
そうこうしているとバリ島に無事到着。
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空港に着いた時に漂う、その国特有の香りが好きだ。バリ島の空港は、南国の花のような香り。
入国審査を経て空港の外に出ようとすると、またしても執事のような方がお出迎え。
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この頃には完全にファーストな男になっていたので、当たり前のように案内に従い、アルファードに乗車。
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しかし、自分を王族か何かだと勘違いしていたこの時は、怪しいガイドに騙されたり、キャッシュカードが使えず極貧転落生活を強いられることになるとは微塵も考えていないのだった。
>>続く
<後編はこちら>
※続編のリクエストをもらいつつも、後編は内容面でも色々あって書くか迷いました。
そのため、興味と理解を示してくださる方だけ見られるよう、後編の最後の部分のみ有料かつ限定公開としています。
<バリ島観光についてはこちら>
※記事内の画像は筆者が撮影した画像か、生成AIで作成しています。
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