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HORSE FROM GOURD

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SHORT STORYS
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#story

We Dance

We Dance

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 大学に向かって必死で自転車をこぐ。古いカートゥーンの表現みたいに、自分の両足が渦巻きになっている滑稽な姿を思い浮かべる。息が苦しい。苦しいのにやめることができない。
 時々わたしは、何が自分を駆動させているのかわからなくなることがある。あるとす

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午前二時

午前二時

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 ハザマは夜中の二時を愛している。

 それは偏愛と言っていい類のものだ。毎日わざわざその時間まで起きておいて、二時そのものを撫で回したり手のひらの上で転がしてみたりするわけではないが、夜中の二時になると何故か心が安らいだ。時計の針が二時を指して

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ネオ・カンガルー日和

ネオ・カンガルー日和

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 めまぐるしい日々が続いていた。
 僕は大学の仕事を辞めて、地元の小さなデザイン会社に再就職したところだった。友達がようやく軌道に乗せた会社で、猫の手も借りたいくらい忙しかった。十六分音符が並んで真っ黒になった楽譜を目で追っているみたいだった。忙

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THE SUMMER ENDS

THE SUMMER ENDS

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 ハングルで書かれた小説の翻訳本を図書館で借りた。ページの端が黄色く日焼けした古い本だった。

 蒸し暑い日の午後だった。本を借りた帰りにコンビニに寄って買った、かき氷スタイルのアイスを食べながらページを繰ると、硬く乾いた紙が指の水滴を吸って柔ら

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バックシート・フェアウェル

バックシート・フェアウェル

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「おいでよ」
 トクサはいつもそう言って私を誘った。そうとだけ言われることが、私にとって一番効果的だと知っていたからだ。

 最初のときのことをよく覚えている。トクサと二人、夜中まで携帯電話のメールで話をしていた。
 多分映画とか音楽の話をし

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塔

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 ぱたーん、という高い音が聞こえて振り返ると、ニシダくんがイーゼルと一緒に床に伏していた。隣に立っていた男の子が呆然としている。
「保健室へ行け」
 先生はそうとだけ命令した。
 教室から声が溢れる。ええー指切っただけなのに倒れたの?貧血?ニシダくん

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ビールのCM

ビールのCM

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 IHのコンロが壊れた。スイッチが入っていることを示すランプは阿呆みたいにびかびかと赤色に光るが、作りおきのインゲン入りコンソメ・スープは、一向に温まる気配がなかった。
 冷たいままのステンレス鍋に指先で触れていると、そもそもこんなわけのわからない機

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尿意

尿意

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「この前、マクドナルドで仕事しているとき、後ろから若い女の子たちの会話が聞こえてきたんだけど」
 こういう枕で始まる話には碌なものがない。
「こういう枕で始まる話には碌なものがない、と思ってるだろ」
 まあ聞けよ。

 この間、変な夢を見たの。
 お

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声

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「あなた自分の声が好きですか」と彼は僕に尋ねた。
 反射的に、いや、と応えてしまう。

 彼は声の仕事をしている。国営放送地方局のアナウンサー。長年の間、朝七時四十五分から始まる地方ニュース番組のキャスターを担当している。

「自分の声が好きな人

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ミントチョコアイスバーの嵐

ミントチョコアイスバーの嵐

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 暗いコンビニの駐車場でミントチョコアイスバーを食していた。
「どうしてそんな薬臭いものが好きなんですか」
「何だか歯磨き粉を食べてるみたいじゃありませんか」
「案外かわいらしい食べ物が好きなんですね」
 と、これを人前でぺろぺろやっていると言わ

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ガソリンの海で

ガソリンの海で

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 うねる音が止んだことに気づいて目覚めると、白い光の中にいた。鉄の塊と錆びた鉄塔のようなものがガラスの向こうに見える。ガソリンスタンドだ。シライの顔の左半分に影が落ちている。
「寝すぎじゃない?」
「ごめん」
「いや、良いんだけどさ」
 体調悪い

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あとをつけて殺してほしいの

あとをつけて殺してほしいの

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 僕は街を浪費している。
 昼前に目覚めると、頭の中に呪いみたいにそのことばが張り付いていた。理由はわからない。確かにその可能性はあるのだろうけど、何故僕だけがそんな風に思わなければいけないのだろう。
 久しぶりにカーテンを開けると隣のホテルの壁だっ

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バナナのない世界にて

バナナのない世界にて

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 バナナがこの世から無くなるかもしれない、という話を耳にした。
「知ってる?バナナって無くなるらしいよ」
 シーツに包まった彼女は、独り言のようにそう言った。何だかこの人の身体も見慣れてきたな、と思いながら交わった夕方のことだった。彼女は

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Frog Portrait

Frog Portrait

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 敷地の中に小川が流れている。小川と言ってもほんとうにささやかな川だ。そんな小川がほつれたように、さらにささやかな小川へと分かれている。どこから流れてきている小川なのか知らないが、敷地のすぐ裏手には蔵王山系が連なって聳えているので、奥深い山の上か

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