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物語の辻褄が合わなかったとしても(映画「キネマの神様」を観て)

原田マハさんの原作を映像化。映画館には行けなかったので、Amazon Prime Videoレンタルで視聴しました。

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観賞後に感じた不満

全体的に感じたのは、山田洋次さんらしからぬ作品だったなということ。

映画に対する山田さんの愛着・愛情は十分伝わってくるのですが、看過できないほど細部の漏れや矛盾などがあり、首を傾げることが多々ありました。(きっと何か意図があるのだと思いますが)

何より理解できなかったのが、若き日のゴウ(演・菅田将暉さん)はなぜ夢を諦めてしまったのか……という点です。

助監督時代に大切に温めていた脚本「シネマの神様」を、ついに監督として撮影できるチャンスが巡ってくる。台本にもびっしり演出のこだわりを書くなど思い入れは強かったのですが、撮影当日の「とあるハプニング」のせいで、ゴウは自ら映画を撮ることを手放してしまいます。

若気の至りとはいえ、そんな感じで放り投げるかな……と頭を抱えてしまいました。

描きたかったのは、物語でなく、ひとりの人間の魅力

山田洋次さんは、映画についてどんなことを考えていたのだろう

鑑賞後に原作者の原田マハさんとのインタビュー記事を拝読しました。

ゴウという人物は、原田さんの父親がモデルになっているそうです。

山田さん曰く「ドシッと巨木のように描かれているのは圧倒的」という感じで、原作は描かれているとのこと。普通の人間の感覚ではないことを、原田さんも山田さんも認めています。

であれば、現在のゴウ(演・沢田研二さん)の振る舞いには納得できます。ギャンブルに溺れ、孫にまで金の無心するような、常人には考えられない行動も、原作者と映画監督ともに了解事項だったわけです。

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そこで納得できるというか、ようやく僕の思い違いの可能性に気付くに至ります。

僕は、辻褄が合わない振る舞いをするゴウという人間に対して、そのまま「辻褄が合わないじゃん!」という不満を抱えていました。

だけど山田さんが描きたかったのは、「辻褄が合わなくて、家族にも大迷惑を掛けているけれど、なぜか周囲に愛される魅力があるよね」という、寅さんシリーズにも通底するような人間観だったのだと思います。

話の筋と並行しつつ、人間そのものの醍醐味を描くことにこだわる。

話の筋をすっ飛ばすことで作品全体の評価が低くなろうとも、映画を解釈してくれる人たちの懐の深さを信じた。確かにそのような作品の作り方は、キャリアの長い山田洋次さんにしかできません。

あとで原作を読んでみよう

とはいえ、僕が感じていた、間延びしたような物語への不満は消えません。人間という面白さを描きつつ、妥当な論理展開を両立させることは可能だったはず。

チームの問題だったように思います。

日本映画界のレジェンドとして、常に確固たる地位を築いている山田洋次さん、朝原雄三さん。彼らの世界観を、他のスタッフやキャストがスパイスを加えられず、シナジー効果を生めなかったのだろうと感じます。

(「この脚本、筋が通っていませんよ」と、山田洋次さんに言える人はほとんどいないので、こればかりは仕方ないのですが)

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ただ映画そのものに対して満足しなくとも、本作は、原田さんによる原作としての『キネマの神様』も存在します。原作も併せて触れることによって、作品への感じ方は変わってくるはずです。

そんな楽しみ方ができるのは、原作が存在する映画作品ならではのこと。観るタイミングによって、映画の感想は変わるものですし、機会があればもう一度観てみようと思います。(まあ、たぶん二度と観ないと思いますが)

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豪華キャストという触れ込みですが、要所要所に、名の知れた俳優が出演しています。ゴウが映画を諦めるきっかけとなったシーンで対峙したカメラマン(キャメラマン)は松尾貴史さんだということに今、気付きました。

『偶然と想像』の主演・渋川清彦さんも。主人公を演じたのは前田旺志郎さんですが、お兄さんの前田航基さんも出演されているとのこと。見逃してしまったなあ。

(Amazon Prime Videoレンタルで観ました)

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