自責思考を、拗らせるな。(映画「THE NOVICE ノーヴィス」を観て)
「『セッション』のサウンドクリエイターが手掛けた作品」。
そんな触れ込みに、期待に胸を膨らませて鑑賞した映画「THE NOVICE ノーヴィス」。思っていたよりもずっと良かったが、ある意味で、「セッション」とは真逆の作品だなと感じた。
監督・脚本・編集を手掛けたのは1989年生まれのローレン・ハダウェイ。タランティーノ監督の「キル・ビル」に影響を受けて映画の道に進む。映画監督を志すも、まずは音響デザインを専門に学び、「ヘイトフル・エイト」、「パシフィック・リム」、「セッション」などの話題作にかかわってきたという。
エンドロールを含む97分間、「ローイング(ボート競技)」をテーマのスポーツドラマ。息つく暇も許さぬ良作だ。
「THE NOVICE ノーヴィス」
(監督:ローレン・ハダウェイ、2021年)
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大学でローイングを始めた主人公のダル。スポーツ万能の期待の新人・エイミーにライバル心を抱きながら、学業も部活も(恋愛も)こなしている。大学ではすでに奨学金を受け取っている優秀な学生だ。
だがダルは、「適当に物事をやり過ごす」ことができない。強迫観念に囚われているといっても過言ではないほど、何もかもに全力で取り組んでいる。ときに周囲が見えなくなり、同期や先輩ともハレーションを起こす。“問題児”として扱われながらも、自力でタイムを伸ばすなど頭角を現していく。
冒頭に「セッション」と真逆だ、と書いた。
「セッション」では、マイルズ・テラー演じるアンドリューが、“鬼コーチ”の激しいプレッシャーのもとレッスンを受ける。「ドラムが上手くなりたい」という思いは、やがてフレッチャー(演:J・K・シモンズ)の期待に応えなくてはという強迫観念に変わっていくという物語だ。
・他者からのプレッシャーによって変えられる主人公が、セッション。
・自分の「内」より生まれるプレッシャーによって自らを変えようとする主人公が、ノーヴィス。
おおもとは同じかもしれないが、私は、「ああ、2020年代を象徴する構図だな」と思わずにいられなかった。
ダルのような完璧主義者は稀かもしれないが、「状況を打開するのは自分の努力次第だ」「今ダメなのは、自分が悪い」というマインドになる人たちは案外多い。自己責任論から派生した自責思考は、拗らせると精神を傷つけてしまう。
何をしても不十分だと思い、反復に次ぐ反復を繰り返す主人公のダル。自己肯定感が高まらず、何年も低空飛行を繰り返す“彼ら”の姿が重なった。
それでも、最後には「良い映画を観たな」と思えたのは、主演のイザベル・ファーマンの熱演に加え、一つひとつのショットや音楽・音響のあり方が抜群に良かったからに他ならない。うっかり、意味のない「反復」も価値があるかもしれないと洗脳されそうになるくらいだ。
漕ぎ続けろ。ただし、やり過ぎ注意。
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個人的には、新人部員たちがローイングの練習として、地下にあるトレーニング器具を漕ぎ始めたあたりにグッときました。
華やかにみえる表舞台の裏で、地味なトレーニングをせっせと行なっているアスリートたち。見習わなくちゃ。
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