「ええんちゃう」が重なって生まれた、くるりらしい音楽(「くるりのえいが」を観て)
岸田さんと佐藤さんが、結成当初のメンバー(オリジナルメンバー)の森さんと終始にこやかに過ごしている。
それなりに長く、くるりの音楽と付き合ってきた身としては、そんな三人の姿を目にするだけでとても温かな気持ちになれます。
「くるりのえいが」
(監督:佐渡岳利、2023年)
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僕にとって、「くるり」とはどんなバンドなのか。
とても素晴らしい楽曲をつくれるバンドであることは疑いない。しかしそういったバンドは往々にして、妥協なくストイックに楽曲制作に臨んでいる。
くるりも例外ではないだろう。特にフロントマンの岸田さんは音楽への造詣が深く、それゆえに周囲のバンドメンバーとのハレーションが発生することもあったはず。実際、くるりは数年単位でメンバーチェンジを繰り返している。過去のくるりのインタビューを読むと、まるで求道者としての岸田繁がありありと浮かんでくる。
だからこそ拍子抜けしたのだ。
「くるりのえいが」で、みんながにこやかにレコーディングに臨んでいたことを。
映画は序盤、「『ばらの花』って、どうやって作ったか憶えてる?」という岸田さんの問いから始まる。
岸田繁、佐藤征史、森信行の三人が伊豆に集い、14枚目のアルバムのレコーディングを敢行する。なぜ森さんをバンドメンバーとして呼ぼうと思ったのか。それは単なる原点回帰でなく、結成当初の基本型である3ピース編成に戻ることによって、未来につながる曲(あるいはアルバム)を残そうとしたのだった。
30年近く、くるりを続けてきた岸田さんと佐藤さん。
かたや、2002年に脱退した森さん。
森さんもフリーのドラマーとして精力的に活動をしてきたものの、いくつもの変遷を辿ってきたくるりに戻り、そしてどんな化学反応が実現するか不安そうだった。
そりゃ、そうだろう。くるりの音楽は名曲揃いだ。名うてのミュージシャンであっても、「自分が足を引っ張ることがなかろうか」と尻込みしてしまうに違いない。
さらに森さんにとっては、バンドを脱退したという「後ろめたさ」のようなものもあっただろう。実際、アイコンタクトもせずにセッションする岸田さんと佐藤さんと違い、序盤の森さんは音を出すたびに、「これが正しいのか」を確認するような目線をふたりに送っていた。
だが、そんな不安は、時間によって少しずつ溶けていく。
ハミングしながらギターを鳴らす岸田さんは、基本的に、「ええんちゃう」といった肯定の言葉を発していた。否定はしない。「もうちょっとサンバっぽく」とかリクエストすることはあるけれど、ふたりの演奏を心から信頼しているように見えた。
「それって、年齢を重ねて、楽曲制作がアバウトになってしまっただけでは?」
そんな意地悪な見方もできるかもしれない。でも楽曲は伸びやかで、くるりらしい素晴らしい音楽が次々と生まれていった。
こんなポジティブなバイブスだけで、くるりのレコーディングは進んでいくんだ。意外だった。とても驚いたけれど、素晴らしさに変わりはない。
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京都のライブハウス「拾得」で行なわれた三人のライブ。
(映画の中で)演奏されたのは「尼崎の魚」「California coconuts」「東京」の三曲。どれもエモーショナルで、官能的で、だけど初期衝動もあった。
特にラストの「東京」はすごく心に沁みた。
某はそれほど「東京」という曲が好きではなかった。どちらかというと「ロックンロール」や「ワンダーフォーゲル」のような曲が好きで、それらに比べると、メロディや歌詞も野暮ったく聴こえたものだ。
でも、映画の「東京」は、三人が苦闘した歴史が詰まっていて。僕も40歳を目前にし、自分なりの闘いを「東京」に重ねることがあったように思う。
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本作の監督を務めたのは、細野晴臣さんのドキュメンタリー映画「NO SMOKING」「SAYONARA AMERICA」を手掛けた佐渡岳利さんだ。
ライブシーンこそ盛り上がるが、それ以外はうっすらとした緊張感が漂うものの、普段通りのくるりの日常が描かれている。
それが実にくるりらしいし、ファンが観たかったくるりの輪郭をきっちり照射していた。とても誠実なフィルムメイクだったと僕は感じた。
映画のテーマソングに選ばれたのは、アルバム「感覚は道標」12曲目に収録されている「In Your Life」。めちゃくちゃ良い曲なので、ぜひ聴いてみてください。
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