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口角が下がらない。(映画「からかい上手の高木さん」を観て)

映画「からかい上手の高木さん」のテキストを、タレント・もり ゆかさんに寄稿いただきました。映画メディア「osanai」に掲載しています。

本作の監督は、今泉力哉さん。

「愛がなんだ」「街の上で」「アンダーカレント」など、メインストリームでないテーマを扱う今泉監督が、すでに漫画やアニメがヒットしている原作『からかい上手の高木さん』を手掛けました。

手始めにアニメ(今泉監督が手掛けていないもの)を観ましたが、良くも悪くもというか、この作品をどのように“今泉色”に染めていくのだろうと想像もつきませんでした。

「からかい上手の高木さん」
(監督:今泉力哉、2024年)


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「10年後」という時間軸

最初、「おや?」とついていけなかったことがありました。

それは西片の友人の中井や浜口が、異性を異性と見做していることでした。中学校時代を描いたアニメ版では、恋とか愛とか、そういった類の物事は限定的でした。(ちょっとはあったけれど)

「人物描写が変わっちゃってるじゃん!」と思ったけれど、それは「10年後」という時間軸が可能にしていることです。しかも、監督はどちらも今泉さん。アニメと映画の差をあえてつくれるのも、同じ監督だからこそ堂々とできるのかもしれません。(違う監督だと、「人物描写が変わってる!」とクレームになりかねませんから)

逆に、そういった中井や浜口の変化と裏腹に、西片があまりにも成長していない。西片はずっと西片のままで、江口洋介さん演じる教師に対して、ずっと、“まるで生徒”のままでした。

変わった中井、浜口。変わらなかった西片。

その差が顕著だからこそ、西片のキャラクターがいっそう魅力的に映ったように思います。

高木が「ワイヤレスイヤホンを持っていない」のには、理由がある

10年間離れ離れだったからとはいえ、現代社会でコミュニケーションツールには事欠きません。電話でやりとりする姿に、決して関係がなくなったわけではないことを映画冒頭に意識づけます。

そして、10年ぶりの再会。そこまで違和感を抱かなかったのは、そういった背景があったから。そして海辺で、中学生のときのようにイヤホンを分け合って「100%片想い」を聴くふたり。

たぶん高木は、ワイヤレスイヤホンも持っていたんでしょう。絵描きを志したことのある高木が、コードつきのイヤホンしか持っていないはずはない。ワイヤレスイヤホンの方が作業しやすいに決まっています。

でも高木は、二人きりになれる状況を想定して、あえてコードつきのイヤホンを持ってきたのでしょう。そのことは映画で語られていなかったけれど、今泉監督の頭の中には、高木は用意周到な人物としてシミュレートされていたはずです。

偶然でなく、必然。

モチーフの端々に、純愛でなく、必然のラブストーリーなんだよということが伺えて面白かったです。(まあ高木も、いざというときに自分の思いを伝えられない不器用な女性なのですが)

「からかう」は、嫌がらせる行為とは限らない

子どもが戯れ合っているのを見て、大人は「相手をからかってはいけません」と叱ることがあると思います。それは正しくもあるし、間違ってもいる。そのことを本作は教えてくれたように思います。

西片は、高木にからかわれて本当に悔しがっている。でも、嫌がっているかといえば、そんなことはない。悔しいと嫌がるの間には微妙な差異があって。それの絶妙なバランスを描いたのが原作であり、今泉監督が指揮した映画「からかい上手の高木さん」ということでしょう。

ここまで、ずっとニコニコしながらスクリーンを直視できた映画も、なかなか珍しいと思います。難しいことを考えず、西片と高木のやりとりを楽しんでください。

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個人的には、映画よりもドラマの方が好きでした。

ドラマはNetflixで配信されています。主人公の西片を演じたのは、「怪物」で強烈な印象を残した黒川想矢さん。彼の余韻が、そのまま映画に反映されたなあという感じです。

気になった方はドラマを鑑賞いただき、「彼らの続きが気になる」という方はぜひ映画もご覧ください。

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