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ハマってはいけないものに、生まれながら関与していることへの葛藤(映画「星の子」を観て)


子どもの頃、ゲームセンターのメダルゲームにハマったことがある。

厳密にいえば、子どもだけでゲームセンターに行くのはNGだった。学校の先生も時々見回りに来ていたから、見つかったら注意されていただろう。運良く、僕(と友達)は誰にも見つからなかったけれど。(ちなみにお金は注ぎ込んでいない。新聞のチラシで「これを持参したらメダル50枚と交換しますよ」みたいなもので、お金をかけずに楽しんでいたのだ)

メダルゲームに興じていたのは、2〜3ヶ月間ほど。ほぼ毎日通っていたような気がする。

ゲーム機の華やかな音楽や、メダルがジャラジャラと落下する音は、実に魅惑的で。特に競馬メダルゲームにハマり、そのときに単勝、複勝、馬連といった言葉を憶えた。

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このとき、僕には「ハマる」習性があることを自覚した。

同時に「怖さ」も感じた。このままハマり続けたら、やばい。

誰に指摘されたわけでもないが、「おれは、こうしてメダルゲームを楽しんでいて良いのだろうか?」と感じた。その場でメダルを使い切って、ゲームセンター通いから足を洗ったのだった。

大人になってから、僕は競馬やパチンコなどは一切していない。当時の記憶、自制心が蘇るからだ。

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何かに、ハマる。

「ハマる」とは、必ずしも悪いことではない。勉強にハマれば学力は向上するし、スポーツにハマれば体力がつく。4歳半の息子は昆虫にハマっているが、すでに親よりも昆虫の生態に詳しい。

一方で、「ハマらない方が良い」とされるものもある。例えばテレビゲーム。「1日30分まで」といったルールが課せられ、なかなか守れなかった人は少なくないだろう。ただゲームに関しては、人によってどこまで許容できるかの判断が分かれる。ゲームにハマることで、ゲームやアニメ界隈のカルチャーに詳しくなるという側面もあるし、eスポーツの世界で活躍するプロゲーマーは、1日10時間以上を「練習」に費やしている。この辺りの価値観は人それぞれだ。

「ハマらない方が良い」の先には、「ハマってはいけない」がある。その代表例として、カルト性の高い宗教が挙げられる。(ひとくちに宗教といっても色々ある。この記事の考えに従い、ここではいわゆるカルト性の高い宗教を「宗教」として話を進めていきたい)

信者を狡猾にマインドコントロールして、生活を崩壊させるほど多額の献金を求める。また逃げ出せないように軟禁し、強制労働を強いるケースもあるという。「なぜハマってしまうのか?」という疑問は長く続いているが、どうにも被害者は後を立たないわけで、ロジックだけで語れるものではないのだろう。

カルト性の高い宗教に、ハマってはいけない。そもそも近付いてはならないのだ。たとえ、どんな理由があったとしても。

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前置きが長くなったが、映画「星の子」へと話を繋げていきたい。

カルト宗教にハマってしまった両親を持つ中学生の葛藤が描かれた2020年公開の作品だ。「MOTHER マザー」で知られる大森立嗣監督が、芦田愛菜さんを主演に抜擢している。(というか、かなり話題になった「MOTHER マザー」公開から、3ヶ月後の作品なんですね。大森監督の多作ぶりよ……)

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ちょうど次男が生まれたタイミングということもあり、僕は本作をすっかり見落としていた。時節柄注目されている作品で、遅ればせながら鑑賞したのだが、なかなかスリリングな展開で気持ちを奪われてしまった。

何がスリリングだったかというと、

・カルト宗教によって結びついていた家族が、主人公が信仰を疑うことによって離れ離れになるのではないか?という展開
・離れ離れとは、精神的にも物理的にも、という意味で
・モラルが全くない教師・南(演・岡田将生さん)による、主人公へのハラスメント
・主人公の両親の信仰がクラス中に暴露されることによって、主人公がクラスメートから孤立してしまうのではないかという危惧(映画の中ではそこまで描かれてはいない)

といった辺りだ。

色々なレイヤーから心臓の痛むようなスリルが湧いてきて、純粋無垢な主人公の変化に、いちいちハラハラしてしまう。(芦田さんが涙したシーンは、思わずこちらも辛くなってしまいますね。演技者としての芦田さんは、感情を移入させる稀有な才能があると感じました)

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本作で描かれたカルト宗教は、おそらく穏便なレベルであるという印象だ。(あえて抑制された範囲しか描かれていないのかもしれないが)

・「特別な水」を購入させられる
・緑色のジャージを着た儀式を毎夜行なわなければならない
・両親は、家でおしぼりを頭に載せて過ごしている(これをしていると風邪をひかなくなるらしい)
・信者を宗教本部に集め、怪しげな集会を行なう
・信者の子どもたちには宗教感はなく、「普通の女子」のような感じでワイワイと楽しげに過ごしている
・信者でない大人が、主人公に「ネットで評判みたら、リンチで殺された信者もいるらしい」と耳打ちする

特に最後のは拍子抜けするくらいの「普通さ」だった。

それゆえ、彼女たちが大人になったとき、どのようにカルト宗教の関係者として染め上げられるのか想像するのが逆に怖かった。

主人公は、自らカルト宗教にハマったわけではない。生まれた直後、自身が病弱であったがために、両親がカルト宗教に救いを求めたというのが事の発端である。いわゆるコンプレックスというか、人々の弱みにつけこんで勧誘するという手口だ。こういったものは頭で分かっていても逃れられないんだと痛感してしまう。

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ラストシーン。

家族3人が一緒の空間にいるわけだが、じっくりと時間がかけられている。希望か絶望か、解釈が分かれているが、僕は絶望なんじゃないかなと感じた。

両親が見つめた世界と、主人公が見つめた世界がすれ違っている。

なんとかお互いが寄り添おうとするけれど、そこには決定的な「違い」が顕在化していて、遅かれ早かれ、家族が離れていってしまうんじゃないかと暗示しているような気がしたのだ。(あくまで僕の解釈です)

あの後、主人公はどうなったのか。両親はカルト宗教にハマったままなのか。

フィクションだと分かっていても、その「つづき」が気になってしまう。それほどに、僕はこの物語にハマってしまったのかもしれない。

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わずかな出演時間だけど、黒木華さんの存在感がとても良いです。同じ大森立嗣さん監督の「日日是好日」では主演を務めましたが、正反対のキャラクターで、存在から異様さが滲み出ているような感じでした。

(Netflix、Amazon Prime Videoで観ることができます)

(こちらの記事では、大森監督の作品づくりが詳しく語られています)

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ほりそう / 堀 聡太
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