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「生まれ変われた?」と問い掛けられるビヨンセの強さ(映画「Renaissance: A Film by Beyoncé」を観て)

ビヨンセの「パフォーマー」としての覚悟がものすごく伝わるドキュメンタリー。

ビヨンセの歌唱だけでなく、ダンスや演出へのこだわりなど、オーディエンスのアイコンとして長く支持されている理由を垣間見ることもできた。

「Renaissance: A Film by Beyoncé」
(監督:ビヨンセ、2023年)

──

本作の監督は、ビヨンセである。

ビヨンセのライブを、ビヨンセが監督として映画化する。

もちろん映画づくりのプロではないビヨンセだから、信頼に足るパートナーとともに制作を進めてきたのだろうが、ビヨンセ自身が監修を務めることによって「ビヨンセがやりかったこと / 表現したかったこと」をまっすぐに映画に込めることができる。

こう書くと、ビヨンセによるビヨンセ映画は素敵なものになるだろうというロジックになるが、往々にしてそんな単純にことは進まない。いわゆる自作自演であることで、客観性のない独りよがりの映画になってしまう可能性がある。カリスマといわれる映画監督による映画がたびたびそういった落とし穴にハマってしまう。他スタッフの意見を封殺し、作り手のエゴが色濃く作品に反映されてしまうのだ。(そういった文脈ではないものの、「君たちはどう生きるか」や「シン・エヴァンゲリオン劇場版」はまさにそのような体制のもとで作られたことが予測できる)

そういった一抹の不安もあったが、本作においては杞憂だった。

自身のライブパフォーマンスを細部にわたりコントロールしてきた経験は、映画づくりにおいても生かされたようで。名うてのスタッフやキャストと作り上げたライブ、そして映画は、まさにコラボレーションの賜物という出来だったように感じた。

ビヨンセが映画で伝えたメッセージは、大きくみっつある。

・個性を尊重すること(あなたは、あなたのままで良い)
・人生は自己責任。障害を所与のものと見做し、障害の先にある勝利を目指すべきだ
・「自分」とは、家族や周囲(故人を含む)の支えによって成立している

今の時代、「人生は自己責任だ」なんて迂闊に言えば、たちまち非難の対象となってしまう。しかしビヨンセは、女性や黒人、その他マイノリティに向かって「人生は自己責任だ」と訴える。白人&男性優位社会によって迫害・排除された人たちが連帯し、戦うことによってひとつずつ勝利を獲得する。結果だけでなく、そこに至るまでのプロセスを大事にしようというメッセージを力強くビヨンセは告げるのだった。(ちなみに本作についても、「『ライブがこのようなプロセスで成り立っている』と見せたかった」とビヨンセは語っている)

もちろん、そのようなメッセージを発信するためには、ビヨンセ自身が彼らの理想の生き方を体現するような存在でなければならない。そうでなければ説得力に欠けてしまうだろう。

その説得力を強固にするのが、ビヨンセの歌唱であり、ダンスであり、キャストのパフォーマンスであり、華やかかつ大胆な演出なのだ。それを見せる(魅せる)のが、まさに映画「Renaissance: A Film by Beyoncé」だったといえよう。

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楽しんでくれた?生まれ変われた?解き放たれた?

ライブの最後にオーディエンスに尋ねるビヨンセ。「生まれ変われた?」と直接観客に問えるのは、自身のパフォーマンスに絶対の自信があるからだろう。楽しむだけじゃない、自分のライブを通じて人生が変わったという体験をさせたいという決意のあらわれように僕は感じた。

そして「解放」というキーワードが、本作ではたびたび出てきた。

これはビヨンセにとっても、これまで自分が築いてきた「成功の方程式」のようなものから解き放たれたいという強い思いがあったのだろう。

これまで自分の成長はトラウマを乗り越えることによって成し遂げてきた。でもこれからは、安らぎや喜びと共に成長したい

僕はまだビヨンセの境地には至っていないけれど、この言葉にもエンパワーメントされる人たちは大勢いるのだろう。時代の精神性と共に、前進していくこと。ビヨンセという存在をこれでもかと思い知らされたのだった。

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昨年からスピッツ、くるりと、音楽関連のドキュメンタリーを映画館で体験している。コロナ禍を経て、傾向としてコンサートの価格は高騰している。ましてビヨンセは海外公演が前提となり、ライブだけでも数万単位(10万円の価格帯だって珍しくない)のコストが必要だ。

そういった諸事情の中で、「映画館でライブを鑑賞する」という形態はますます増えていくのではないだろうか。フジロックやサマーソニックだって、映画館と組んでリアルタイム上映すればいい(スクリーンを分けて、ステージ毎の演奏を聴けるような仕様だと最高だ)。

本作の素晴らしさと共に、「映画館」というメディアの可能性も大いに感じられた。いち企画者・編集者として、アイデアが膨らむ一日でもあった。

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