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名著を読む意味や理由など、ないのかも知れない(秋満吉彦『行く先はいつも名著が教えてくれる』を読んで)
NHK Eテレ「100分 de 名著」のプロデューサー・秋満吉彦さんによる著書。3年前から「100 de 名著」を観ており、番組を企画するプロデューサーの頭の中を覗いてみたくて、本書を手に取った。
──
なぜ名著を読むのだろう
読んだ方が良いのは分かっている。
だけど文体や時代背景などの違いにより、古典というのは往々にして読みづらいものだ。昨今は「ファスト教養」という言葉に代表されるように、そもそも古典や名著に触れる意味や動機について見直されるようになっているようにも思う。
本書のまえがきで、著者は『生きがいについて』の神谷美恵子の言葉が紹介されている。
どこでも一寸切れば私の生血がほとばしり出すような文字、そんな文字で書きたい、私の本は。(中略)体験からにじみ出た思想、生活と密着した思想、しかもその思想を結晶の形で取り出すこと
このnoteを書くにあたり本書を再読したのだが、神谷の言葉に、もやが晴れるような感覚を得た。表面的にみれば情緒的な表現だが、神谷のバックグラウンド(彼女の思い・行動)の苛烈さを知れば、それはいわゆる精神科医のイメージを超越するような本物の力を持った言葉だということが理解できる。
なぜ名著を読むのか。それは、意味とか、動機とか、そういったものは必要でないかもしれない。
人間は、誰もが大なり小なり悩んでいる。「答え」らしきものを探している。もがきながら見出すこともあれば、公園で遊んでいる他人の子どもたちを見て真理を見出すこともあるだろう。
「答え」は自分の中にある。
そんな手垢のついた言葉は使いたくないけれど、たまたま手にした名著で、たまたま目にした一節を読んで、自分の中に眠っていた「答え」が掘り起こされるのではないだろうか。
名著は、きっとそういった出会いの可能性を秘めている。例えば、ローマ皇帝のマルクス・アウレリウス『自省録』は、2000年という月日を経て読み継がれている、名著中の名著だ。その徹底された自己批判のテキストは、時代や国を超えて多くの人の心に刺さってきた。それは作家の意図をも超えて。誤読だって構わない、名著はその人の道標として、いつでも寄り添ってくれるのだから。
「慧眼」という感覚
本には書かれた理由がある。
それは作家の内なる「書きたい」という意欲もあれば、時代背景によって「書かされた(書かざるを得なかった)」というような理由もあるだろう。現在でも「企画を編集者から持ち込まれて」といったきっかけがあることを公言する作家もいる。きっかけなんて、人それぞれだろう。
しかし一たび筆をとり、テキストを起こしていく中で、作家は自分の「眼」を発揮することになる。作家の「眼」を通って見た、聞いた、感じたことが、テキストの中に存分に込められることになり、それがアウトプットとしての作品に強く反映されていくのだ。
その「眼」が慧眼だったかどうかは、時間が経たないと分からない。
明治〜昭和の文豪と呼ばれる作家が書いたテキストが、今読むと、女性差別を言外ににおわせているものだということは結構ある。しばらくは時代を代表する作家として評価されてきたが、最近は「ちょっと視野が狭かったのでは?」といって評価を落としていたりもする。(作家に限らず、芸術家全般で、時代によって評価が上下するのは普通のことなのだけど)
それを「そういう時代だったから」とするのは簡単だ。
だが作家とは、作家自身の「眼」で、自分の書いたテキストも批判しなければならない職業だ。そういった面で、名著として評価が高い作品は、時代が変わったとしても揺るぎない普遍性を纏っている。
過去から未来をどう捉えていたか。
名著を読んで、作家の「慧眼」を想像することはなかなか大変だ。そういった意味で、「100分 de 名著」という番組は、作家の「慧眼」を読み解く上での補助線だと僕は思っている。
タイトルが「行き先」でなく、「行く先」である意味
「行き先」でなく「行く先」というタイトルも、おそらく意図があるのだろう。日本語のセオリー通りに、「行き先」と書けば、能動か受動か分かりづらくなる。
「行く先」とすることで、読んだ人が主語・主体となる。名著に触れるのは大切だが、読んだ人が、その後どう生きるのかを期待する著者の温かいメッセージが込められているように感じた。
僕はどんな道を「行く」だろうか。色々な考えがモヤモヤと浮かんでは消える初秋に、本書を手にできて本当に良かった。
*Podcast*
秋満吉彦『行く先はいつも名著が教えてくれる』の感想を、読書ラジオ「本屋になれなかった僕が」で配信しています。お時間あれば聴いてみてください。(Spotifyのリンクが上手く貼れませんでしたが、URLクリックしてもらえればSpotifyのページに遷移します)
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