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【読書百遍】『第三の支柱』

『第三の支柱』
ラグラム•ラジャン 著
月谷真紀 訳
みすず書房 (2021.07.16)

はじめに

これまで「経済成長」の時代に、生産と消費を加速させて来た資本主義に行き詰まりが見えている。
環境や格差問題を始め、様々な歪みが溜まってきている。
カネがカネを生む装置としての資本主義
モノとモノを交換する場としての市場経済
▶ 資本主義と市場経済を混同させてはいけない。

【日経書評】2021.09.25.より

本書のタイトル「第三の支柱」は、コミュニティー、すなわちメンバーが特定の地域に住み、統治や文化・歴史遺産を共有する社会集団を指している。
著者は、市場 • 国家とコミュニティーが社会を支える三本の柱であると考え、近代以降、市場と国家がコミュニティーの役割を侵食してきたことに着目する。
特に21世紀に入ってからICT革命と経済のグローバル化がこの動きを加速し、その結果、三本の柱の間のバランスが崩れて、社会が危機に直面しているというのが著者の主張である。
ICT革命とグローバル化は先進国の所得分配を二極化させている。新技術を活用するために必要な技能を持つ人々が高所得を得る一方、新技術が中程度の技能を代替し、これらの技能を持つ人々から良質の職が失われるからである。
本書のユニークなところは、この変化がコミュニティーに与える打撃を強調する点にある。高所得を得るようになった人々が、裕福な人々が集まる地域に移住し、もとのコミュニティーには低所得者だけが残される。
また、グローバル化の結果、産業が衰退して、その産業に依存していたコミュニティーが衰退する場合もある。
著者はコミュニティーの衰退が社会にもたらす負の影響に警鐘を鳴らす。第1にコミュニティーの衰退は教育の質の低下を招く。新技術によって従来の技能の価値が低下した人々も、適切な教育が提供されれば新技術に適応した新しい技能を身につけることができる。しかし初等中等教育を主に担うコミュニティーの衰退は、この可能性を閉ざし、所得分配の不平等を固定化する。第2にコミュニティーが衰退すると個々人が孤立し、彼女・彼等は満たされない帰属欲求から政治的ポピュリズムに惹(ひ)かれ、国内の分断と国家間の対立が引き起こされる。
著者はコミュニティーを再生する方途についても論じている。コミュニティー再生の鍵として提示されるのは、リーダーの存在、既存の人的・物的資産の活用、住民の参加と国からの権限委譲である。これらはいずれも即効性のある施策とは言いにくい。
コミュニティー再生は容易ではないということであろう。
しかし起こっている事態は深刻であり、また日本にも共通する部分が大きい。著者の鳴らす警鐘と提言は日本にも向けられている。
《評》東京大学教授 岡崎 哲二

【Note】2022.01.16.

2022.04.23.

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