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良い図書館さえあればいい

前職の図書館員時代にはじめた「旅のついでの図書館訪問」が高じて、今は青森県の地方紙「陸奥新報」に「図書館ウォーカー」という旅エッセイを連載している。

早いもので、来年最初の掲載で50回目を迎える。「図書館ウォーカー」とはとどのつまり図書館を拠点にした街歩きなので、連載50回ということは言い換えればこれまで50個の街を紹介してきたということになる。

(これまで紹介した館については順次ツイッターで紹介しています↓)

街歩きの際に図書館を拠点に設定するというコンセプト?には、効率よく街歩きをして短時間でその街の日常を感じ取る、という効果がある。なぜなのかと言うと、基本的に図書館とは地元住民のための施設だからだ。そこに住む人たちが普段使いする施設からは、観光客が目にする「よそ行き」の風景とはまた違うものが見えてくる。

ほんの少し滞在したくらいで「わかったつもり」になるのは避けたいが、ただ当てもなく街ブラするより、図書館を目的地に設定したほうがその街の日常を理解する手助けくらいにはなる、と考えている。

これまで200館以上の図書館を訪ねてきたが、図書館を通してその街を見るうちに何度も「こんな図書館があるなら、ここに暮らしてもいいかな」という感想をおぼえるようになった。

図書館を通してその街の日常を思い描く、という行いがダイレクトに「図書館のあるその街での暮らし」というイメージにつながるのだ。

もうひとつ理由を挙げるとすれば、僕の「浮気性」のせいもあるだろう。僕は10数年住んでいる青森市がけっこう好きだが、「けっこう」というのが曲者で、要するに「住めば都」なのだと思う。

出身者や、終の棲家にしたいとかお店を出して新しい人生を歩みたいと思って移住してきた人たちにくらべると思い入れは相当に弱い。「ここじゃなければいけない」というこだわりがほとんどないので、住むことになった街は基本的に好きになると思っている。よく言えば順応性が高い。

今は青森市に住んでいるからこの街に愛着を持っているけれど、どこかに引っ越すことになったら、今度はその「どこか」がその時の僕にとっての「いい街」「好きな場所」になるのだろう。悪く言えば浮気性ということだ。

ただ、図書館ウォーカーとしてたくさんの街を訪ねるうちに「自分がいいと思える図書館がないと、移住した後の日常のイメージを持ちにくい」ということがわかった。逆に言うと「良い図書館さえあればいい」ということだ。

僕が青森市での暮らしをそれなりに謳歌できているのは、図書館の存在も大きい。前に働いていたことがあるから内実をよく知っていて、本音を言うとあまり手放しでほめたくはないのだけれど、単に本を借りるだけのユーザーとして見た場合、青森市の図書館はそこそこ満足度が高い。所蔵冊数も80万冊と多いし、新着資料受け入れも頻度、冊数ともに多い。豊かな読書ライフを送れている。

旅先で訪ねた図書館でも所蔵資料の充実度についてはよく見るようにしている。充実度と言ってもいろいろあって、ただ単に冊数が多ければいいというものでもない。その辺はまあ元図書館員としての経験もあるので、そこそこ正確な判断ができると思っている。

アクセシビリティも重要な点だ。僕が通う図書館は青森駅のすぐそばに建つ複合施設(写真↓三色ラインある建物)の中にあって、その青森駅には徒歩10分以内の我が家の最寄り駅から1時間に1本程度の電車で行ける。本数は少ないものの、徒歩5分ほどのところにバス停もある。車が運転できない僕にとってはこれは大きい。

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どんなに立派できれいでサービスが良い図書館があっても、車で数十分の、公共交通も通っていない荒野の中に建っている館だったらそれは僕にとっては良い図書館ではない。

個人的には車を運転する人だけにフォーカスした図書館を作るような自治体は基本的に弱者に優しくなく、多様性に対する感度も低いような気がする。図書館のあり方は自治体のあり方にもつながっていると思う。

今の僕は基本的に本を借りてすぐ帰るだけで、調べ物などで図書館に長く滞在することはほとんどないが、それでも館内での過ごしやすさというのはけっこう大事な点だ。過ごしやすさとは単に清潔感とか採光の良さとかだけでなく、図書館員の醸し出す雰囲気とか館内設備のレイアウトなどなど、短時間の滞在でも影響するところはある。

どことは言わないが、これまで訪ねた館の中にも、デザインがすごくカッコよくて施設としては居心地良さそうなのに妙に排他的な空気を出しているところもあった。

まあ明らかに旅行者として行ったし、いわゆる「映える」ヴィジュアルを持っている図書館は無断撮影など迷惑行為の悩みも多いのだろう。地元の人だと感じ方も違うのかもしれない。でもやっぱり、なんか空気がピリピリしてるんだよなあ。

などなどいろんなポイントから評価した「良い図書館」がある街は、移住することになっても楽しそうだと思えるし、その想像自体が楽しい。

ここ2年くらいの間に行った場所で印象的な例を挙げると、北海道の豊富町などは移住してもいいかなと思える図書館(写真↓)があった。正式には定住支援センターふらっと☆きた内の「図書室」なのだけれど、新しくきれいで資料も充実していた。貸出は夜8時までだが、閲覧だけなら9時までいられるらしい。

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この図書室からは「豊かな日常が送れそう」というイメージを描くことができた。豊富町はとても小さな自治体だし、近くにある「都会」も人口3万人強の稚内市しかない。実際に住んだら不便だと感じることもたくさんあるだろうし、不満も当然あるだろう。

でも、この図書室があればそうした点と相殺してもそこそこプラスになる暮らしが営めると思った。街の規模が小さく「超コンパクトシティ」なので、毎日歩いて通える図書館ライフみたいな想像もしやすかった。まあ食べ物はおいしいに決まってるし、近くには温泉もあるしね(笑)

北海道釧路市(表紙写真)、岩手県大船渡市、新潟県南魚沼市(写真↓雪凄いw)とか島根県浜田市、広島県三次市あたりも印象に残っていて、移住しても良さそうと感じた。鳥取県立図書館や福島県の須賀川市民交流センターtette内図書館(写真↓2枚目)、富山市立図書館本館など世評の高い図書館もさすがで、やはりそういう館がある街にも移住してみたくなる。

六日町 (4)

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コロナ禍→テレワーク→地方移住推奨という流れには移住後定住者として良くも悪くも思うところがある。特にメソッドが先走りしている点には個人的に首をかしげるのだが、けっきょくのところ移住先の街が好きになれるかどうかは「この点さえクリアしていればいい」という部分が自分の中ではっきりしているかどうかにかかっていると考えている。

僕にとってはそれが「図書館」なのだ。良い図書館さえあれば、僕はその街で楽しく暮らせるし、好きになれると思っている。

(終わり)

(移住については↓記事もあります)


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