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短編: ももまろの『アリとキリギリス③』
雨はさっきより強く降り出した。
てんとう虫と別れた僕は石の下へ帰り、春先の出来事を振り返った。
春の長雨は、近所の沼が決壊し、思った以上に野原へ影響を及ぼした。
僕らダンゴムシは枯れ木の幹でアリの巣から流れ出る水を見て、何かが起こっていることに気づいた。
「アリたちを助けなければ!」
僕らは協力して、巣の周りの水を排出する作業を始めた。僕らは小さな体を使って土を掘り起こし、水が流れ出る道を作る。小雨になると少しずつ水が引いていき、巣が乾いていくのが見えた。
アリたちは外からの助けを受けながら
「キミたちも大変なときにありがとう」
しかし僕らが作業を終えるとアリたちは僕らに助けを求めてきた。
「私たちの女王がいなくなってしまった。新しい女王を育てる方法が分からない」
急にそんなことを言われても。
アリの巣では女王アリが産卵していたそうで、突然の決壊は巣を水浸しにした。女王アリは必死に卵を守ろうとしたそうだが、流れ込む水に飲まれてしまい、彼女は水没して死んでしまった。
アリたちは女王アリがいなくなると卵も育てられず、巣は次第に衰退していく運命にある。
アリの知恵を借りつつ、僕らが一緒に協力すれば、きっと新しい女王アリを育てられるはずだ。
僕らダンゴムシは、アリたちに食料を運ぶ手伝いをし、巣の修復も手伝った。
何日にも及ぶ仕事だったが、桃が花をつける頃、努力が実を結び、アリたちは新しい女王アリの卵を見つけ出した。
僕らの助けを借りて、アリたちは新しい女王アリを育て、巣を再生させた。
アリの巣は再び活気を取り戻し、僕らとアリたちは、互いに助け合う中で強い関係を築いていった。
共に生き、助け合いを学んだはずだったのに。
「そんなこともあったのにな」
僕は気を取り直そうにも、雨音がアリとキリギリスの会話を忘れさせてくれない。
僕のように昼間は石の下にいる存在は他から見ると寝てばかりと思われているかもしれない。
「いや、本当にそうか?」
キリギリス、アリ、てんとう虫、僕。
それぞれの境遇を思い浮かべてみると、それぞれが少し違う。
アリは、孤高では生きられない。
もし巣を出てしまえば反乱分子として干される宿命にあり、革命など起こさないために女王アリがいるのかもしれない。
改革や個性の違いが当たり前にある野原は、アリと異なり、それぞれの虫にチャンスを与え、見守り、信じる覚悟があるように思う。