今また手塚治虫「火の鳥」(その3)〜もう一つの“望郷編“におけるロミの運命
(承前)
手塚治虫が作品を単行本化する際、雑誌連載時の原稿に加筆・修正を加えたことはよく知られている。私も認識していたが、何が変わったのか、特に比較するようなことはなかった。
今回、アニメ「エデンの宙」を起点に、「火の鳥 望郷編」(講談社手塚治虫漫画全集〜電子書籍版) を読んだわけだが、私の元にはもう一つの「火の鳥 望郷編」がある。それは、復刊ドットコムから出版された「火の鳥<オリジナル版>復刻大全集」の中の一冊、「望郷編」である。(現在は、「火の鳥<オリジナル版>」を販売中)
友人が、「是非読み比べて欲しい」と貸してくれた一冊であり、アニメをきっかけに、本格的に取り組むことになった。これも、何かの縁である。
<オリジナル版>に収録されているのが、雑誌収録時のもの。扉絵やカラーぺージが含まれている。これを元に、「月刊マンガ少年別冊」として「望郷編」を出す際に、手塚は手を入れ、それがベースになって、私が読んだ講談社版(以下、単行本版)が出来ているようだ。 (他にも角川書店版などがあるらしい)
両者を開きながら、読み進めると、かなりの修正が施されていることが分かる。
セリフなどのネームが細かく変更されているのはもちろんのこと、ページ順や削除・追加、コマ割りの組み替えなど、マンガの流れが再整理されている。
内容自体も微妙に変化している。印象的なのは、物語中盤における主人公ロミの表情。<オリジナル版>では物語が進行する中、ロミは一旦年齢を重ね、表情が変化する。単行本版では、冷凍睡眠を繰り返すことにより、若さを保っている設定となっており、表情が変わらない。具体的には、前者は“ほうれい線“を描くことにより年齢の進行を表し、単行本版ではその線が削除されている。
物語のクライマックス、ロミの運命について、重要な変更を加えている。単行本版では、ロミは天寿をまっとうして亡くなるが、<オリジナル版>では牧村に撃たれる。
また、「星の王子様」との関係性は、単行本版で加えられたものである。
どちらの版が良いかという感想を述べるつもりはない。それぞれに、手塚治虫の想いが込められている。両者を比較することによって、手塚治虫がこの作品にいかに心血を注いだかがよく分かる。そして、変化を見つめることによって、手塚の気持ちの移ろいが多少なりとも感じ取ることができる。
食卓にiPadに単行本版を映し出し、手元の<オリジナル版>と比較しながら読み進む私を、妻が「今度は何の研究してるの?」とからかった。
なかなか楽しい“研究“でした
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