上方コメディアンが結集〜映画版「スチャラカ社員」
1960年代、テレビ喜劇界における二大作品は「スチャラカ社員」と「てなもんや三度笠」である。脚本に香川登志緒、演出がTVプロデューサー澤田隆治である。2年前、澤田隆治氏が逝去された際、彼らについては少し書いたので、ご興味のある方はご参照されたい。
「スチャラカ社員」は、1961年から1967年まで放送されたコメディ・ドラマであるが、私に記憶には残っていない。後年、上方喜劇の歴史として知るのみだった。配信サービスU-NEXT、どこで調べてきたのか、“あなたへのおすすめビデオ“として、「スチャラカ社員」が登場した。映画版があったのか。
テレビ版はフィルムが残っていないので、観ることはかなわない。当時の日本はビデオテープ節約のたま、全て消去・上書きしていた。同時期に始まったアメリカのドラマ「奥さまは魔女」は完璧に残っているのに。日本は貧乏だったのだ。
「スチャラカ社員」はどんなドラマだったか。映画版はドラマとはかなり異なっているようだが、当時の様子を垣間観る上で、映画版の存在は貴重である。
ドラマは、ミヤコ蝶々演じる女性社長が経営する大阪の会社を舞台とし、そこで働くサラリーマンのドタバタである。映画もこの構成を踏襲しており、TV版同様、漫才コンビの中田ダイマル・ラケット(以下、ダイラケ)が主役である。この三人に加え長門勇は映画版でも中心人物として登場する。
ダイラケはエンタツ・アチャコを継ぐ存在として、漫才界のトップスター。後年、澤田隆治のプロデュースにより、花王名人劇場などで復活、私はその面白さに熱狂した。ダイマルさんはこの映画の中の姿とは異なり、痩せていたがその“ボケ“はまさしく名人だった。(澤田隆治が制作したCDはこちら)
原作は香川登志緒、澤田隆治は脚色の一人として名を連ね、監督は多くの喜劇映画を手がかけた前田陽一(桃井かおりが日本アカデミー賞主演女優賞を獲得した「神さまのくれた赤ん坊」という作品もある)。音楽には、“スーダラ節“始め、クレージーキャッツへの楽曲提供で一世をふうびしていた萩原哲晶が起用されている。
TV版に登場した、藤田まこと/白木みのるの“てなもんや“コンビの出演はないが、上方喜劇人が続々登場する。若井はんじ・けんじ、上方柳次・柳太(床屋のシーンは最高!)、夢路いとし・喜味こいし、かしまし娘。ダイラケの同僚として登場するのがルーキー新一、レッツゴー三匹のセンター、「三波春夫でございます」の文句で知られる正児である。
物語のクライマックスで登場する宮川左近ショーの存在感が嬉しい。周囲の喧騒をものともせず、浪曲ショーを繰り広げる。
喜劇人以外にも、事務員役に若き日の新藤恵美。私の世代には、ボウリングを題材としたドラマ“美しきチャレンジャー“の主演で有名。この事務員役は、TV版ではデビューしたての藤純子(現:富司純子)や西川ヘレン(西川きよしの奥様。当時は、彼女の方が売れっ子だった〜念のため)が演じたようだ。その相手やとして、“仮面ライダー“藤岡弘。さらに、特別ゲストが都はるみ。
彼らを観るだけでも価値がある上に、60年代に大阪の風景を楽しめ、もちろん往時の上方コメディの匂いを嗅げる。
貴重なフィルムである