いまさらだけど「20世紀少年」(その3)〜リアルな“よげんの書“とも言える
(承前)
「20世紀少年」は、“架空の文化史“と書いた。その中でも、リアルな昭和史の部分においては、私は自分史の追体験を楽しんだ。
それでは本作で描かれた“未来“はどうだろう。
繰り返しになるが、本作が連載されたのは1999ー2007年である。
ここからは、少しばかりネタバレになるので、ご留意を。
悲劇の発端は、20世紀の終わりに登場する謎の病原体である。世界各地で発生し、多くの人が死亡する。“未来“に向けても、ウィルスとワクチンがテーマになり、ワクチンの政治利用といった側面まで登場する。現時点で本作を読む人は、エボラ出血熱やコロナ・ウィルスを想起するであろう。
“ともだち“が率いる悪の組織は、友民党を結成し政治進出、支持者を拡大し政権を担うまでになる。支持者獲得のための手段は、新興宗教のそれと酷似すると共に、二分法による、反対勢力の排除である。
安倍一強体制、旧統一教会問題。某国で行われている洗脳教育。あるいは、同時多発テロ事件。一部は、連載時の“過去“の影響も感じられるが、素晴らしい創作は未来に対する“よげんの書“となっている。
“過去“へと侵入する、仮想現実ゲームは、小説「三体」でのそれを先取りし、本当の未来を示しているようにも見える。
浦沢直樹は、手塚治虫・石ノ森章太郎といった先人の影響を受け、敬愛している。そして本作は彼らへのオマージュとも言えるが、未来を描いた“過去“のマンガが“未来“を予言したように、「20世紀少年」も世界が警戒すべきことを提示している。
山下達郎の代表曲の一つに“アトムの子“(1999年)という楽曲がある。これもまた、手塚治虫に捧げた作品である。この曲の歌詞の最後は、こうである。
🎵 意地悪 する子がいたって 最後は仲良くなれたよ
あの子は どうしているだろう 今でも大事な友達
みんなで 力を合わせて 素敵な未来にしようと
どんなに 大人になっても 僕らはアトムの子供さ 🎵
浦沢直樹は、“未来“を予言しながら、“アトムの子供“として力を合わせることの大切さも示している。浦沢は、本作の主眼は“架空の文化史“を作ることであり、<『ともだち』の正体が僕にとってはあまり意味がなかった>(「描いて描いて描きまくる」より)と語っている。
私も“ともだち“が誰かには、あまりこだわらない。一方で、友達はなぜ“ともだち“になったのか、“ともだち“を作らないためには何が大事なのか、“素敵な未来“を迎えるためにも、それが重要なテーマであるように思う。
手塚・石ノ森が開拓し、大友克洋が作画という観点から示したマンガの可能性を、浦沢直樹が広げた。「20世紀少年」そして書かなければいけなかった「21世紀少年」、一つの到達点にある名作である。
これで一旦おしまい。。。なのだけれど、映画版がある