宮島未奈の“成瀬シリーズ“は2冊読もう〜「本屋大賞」受賞作の魅力
旧聞ではあるが、今年の「本屋大賞」は、宮島未奈の「成瀬は天下を取りにいく」が受賞した。書店員が選ぶ、“一番売りたい本“である。
私はノミネート作品のうち、津村記久子「水車小屋のネネ」、塩田武士「存在のすべてを」、川上未映子「黄色い家」を読んでいた。すべて素晴らしい小説だが、賞の性格上、この中で受賞するとすれば「ネネ」だろうと予想していた。結果は、順に2位、3位、6位だった。
“成瀬“は読まなくていいかと、考えていたのだが、ラジオで太田光が絶賛していたので読むことにした。(Amazon Audible版あり)
滋賀県に住む中学生の成瀬あかりは、一種のスーパーガール。文武に秀でている上に、行動力がある。ただ、周りから見ると、ちょっと“変わり者“である。西武大津店の閉店を惜しむため、夏休みに同店に通い応援を始める。
こうした幕明けから、友人の島崎みゆきを巻き込んだM1グランプリ出場へと、連作短編小説は展開する。
このまま、成瀬あかりの物語になるのかと思いきや、連作は彼女の周辺に位置する人々、成瀬あかりから何らかの影響を受ける人物に焦点を当てつつ、最後は成瀬と島崎の世界へと戻る。
読後の感想は、「悪くないけど、ちょっと自分の世代が読む小説ではないかな」だった。
それでも、折角なので今年の1月に出た続編「成瀬は信じた道をいく」を読んだ。これが、滅法刺さった〜めちゃ面白い! 高校生・大学生はもちろんのこと、おじさん・おばさんにもお勧めする。
前作同様の連作短篇、成瀬は高校から大学に進学する。新たな登場人物、特にクレーマーの呉間言実(くれまことみ)が秀逸。
読みながら、成瀬あかりは“変わり者“ではあるが、本当にそうなのかと考えた。彼女が“変わり者“と言われる理由は、一つには話し方だが、もう一つは考えたことを次々に実行することである。はて、後者は変わっているのだろうか、むしろ普通なのではないか。私も含め、やりたいと思ったことを実行に移さない、そしてそのための言い訳ばかりを考える人は多いように感じる。それこそが、自然ではない“変わり者“なのではと。
“成瀬シリーズ“には、成瀬あかりを始め、行動力のある人が多く登場する。そして、周囲は彼らに刺激され、活動の輪が広がっていく。このシリーズの魅力はそこにあるのではないか。
あらためて、第一作を読み返すと、そこには様々な伏線があったことにも気づかされる。それだけ、成瀬あかりという人物が、作者の手を離れて自由に動き回っているのだろう。
“成瀬シリーズ“は、是非2冊とも読んで欲しい