映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」〜これは現代のホラーか
昨日書いた、宇野維正著「ハリウッド映画の終焉」、取り上げられた16作の映画の中、9作が未見だったが、その中でこれは観ておかないとと思った作品がいくつかある。
同書が最初に取り上げたのは、エメラルド・フェネル監督の「プロミシング・ヤング・ウーマン」である。そして、ハリウッドは2020年のこの映画<『プロミシング〜』以降の時代に突入することになる>と書かれている。そこまで言われたら、観ざるを得ないではないか。
エメラルド・フェネルのこれまでのメインの活動は女優であって、Netflixのドラマ「ザ・クラウン」のS3−4で現在の王妃、カミラを演じた。今、話題の「バービー」にも出演している。その彼女が、初めて長編映画を監督した。
ドラマは、バーのシーンから始まる。完全に泥酔した若い女性に、男性がおためごかしに声をかける。大丈夫かと心配する姿勢を見せ、家まで送ろうと申し出、そして“送り狼“(これも死語だろうか)と化す。まぁ、よくある状況である。
しかし、この女性キャシー(キャリー・マリガン)には別の顔があった。
まず、ハリウッドが「プロミシング・ヤング・ウーマン」以降の時代に入ったかどうかは別にして、極めて面白い映画である。退屈なシーンが皆無で、テンポがよく(アカデミー脚本賞受賞)、主演のキャリー・マリガンのキャラが見事に立っている。(アカデミー主演女優賞ノミネート)初監督作品で、このクォリティは凄い。
見始めた時、この映画は“ホラー“かと思ったが、キャシーの衣装を含めて、映像がポップなこともあり、観ていて心地悪くない。しかし、この映画が取り扱っているのは、現代におけるある種の“ホラー“である。
さて、なぜ“プロミシング〜以降“なのか。「ハリウッド映画の終焉」の第一章のタイトルは<#MeTooとキャンセルカルチャーの余波“で、なにが“以降“かと言えば<作品のテーマ、及びその扱い方についての話だ>。
本作はNetflixで配信されているので、その紹介文の範囲内でネタバレする。
キャシーは、親友を性的暴行により亡くしている。そして、彼女はそのことに対し、報復を企てているのだ。
但し、<本作には観客を追い詰めるようなショッキングな性暴力シーンはなく、それどころかレイプ(rape)や性的暴行(sexual assault)という言葉する一切使用されていない>、<男性の観客に対していかなる意味においてもポルノ的な消費を許さないという強い意志のあらわれだろうし>、女性観客に対する配慮でもあろうと、宇野氏は書いている。
一昔前であれば、ハリウッドの“男たち“は決して取り上げたがらない題材が、映画として実現し、ヒットし、高い評価を得た。
宇野氏は<後戻りのできない一歩を踏み出すことになった>と書いている。
ぜひ、そのことをご自身の目で確認して欲しい