心に残るの大崎善生の著作二冊〜ご冥福をお祈りします
昨日(8月6日)の朝刊を開いたら、作家・大崎善生の訃報が掲載されていた。2年前からがんを患っていたそうだが、私とほぼ同世代の66歳、若すぎる死である。
彼が<羽生善治の壮大な仕掛け>と題して藤井聡太の七冠達成について日経新聞に寄稿した記事が素晴らしく、記事にもした。
多くの作品を読んだわけではないが、心に残っている作家がいる。大崎善生は私にとってそんな存在である。
大崎は大学在学中に将棋の世界に導かれ、「将棋世界」の編集長など、将棋雑誌を手がける。そんな彼に出会ったのが、デビュー作「聖の青春」(講談社文庫)。本書については、かつて触れたが、早逝の棋士・村山聖の生きざまを描いたノンフィクションで、映画化もされた。素晴らしい作品であり、大崎善生という名前が頭に刻み込まれた。
その後、大崎善生は小説を書き始めるが、それらの作品には手を伸ばさなかった。
再び大崎作品を手に取ったのが、2012年に出版された「赦す人」(新潮文庫)。SM小説で有名な団鬼六の生涯を描いた作品である。
団鬼六は将棋にも入れ込み、雑誌「将棋ジャーナル」に私財を注ぎ込む。私は1995年に団鬼六が上梓した「真剣師 小池重明」(幻冬社)を興味深く読んでおり、団と将棋の関係を知らないわけではなかった。ちなみに“真剣師“とは、お金を掛けて将棋(等)を指し、生計を立てている人のことである。
「赦す人」では、そんな団鬼六の波瀾万丈の生涯が描かれる。「真剣師 小池重明」を読んだ時は、まったく知らなかったが、この作品は団鬼六の転機となったものだった。「赦す人」で大崎は、<『真剣師 小池重明』を足がかりにSM作家という殻を突き破って、文芸誌に次々と傑作を発表していくさまは鬼気迫るものがある。>と書いている。
団鬼六は食道がんで亡くなった。大崎善生は、印象的な団の言葉を「赦す人」に記している。
<「死は観光や」>
大崎はきっとこの言葉を思い出しながら旅立ったのだと思う。
大崎善生の残した二冊の傑作、「聖の青春」と「赦す人」を改めてご紹介するとともに、ご冥福をお祈りする
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