伊丹十三の映画が観られる‼︎(その8)〜大江健三郎原作「静かな生活」
日本映画専門チャンネルの伊丹十三劇場、4月22日は第八作「静かな生活」が放送される。
先月、ノーベル文学賞受賞者の大江健三郎が亡くなった。私が初めて大江作品を読んだのは「同時代ゲーム」だった。1978年、高校三年生の年である。
新潮社の「純文学書き下ろし」シリーズの1冊として出版された。箱入りの立派な装丁で、私はこのシリーズになにか憧れのようなものがあった。祖母のタンスの上に、同シリーズの有吉佐和子の「恍惚の人」があった。何か、自分が読みたいと思う作品が出ないかと思っていたところ、「同時代ゲーム」が出版された。なお、その後、村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」が、1985年にこのシリーズから出る。
「同時代ゲーム」、よく分からなかったが、なんだか面白かった。その後、「万延元年のフットボール」を読んだが、以来、大江作品からは遠ざかった。そして今回、伊丹十三監督作品で再会する。「静かな生活」である。
映画「静かな生活」の主人公イーヨー(渡部篤郎)には、大江の長男で障がいを持つ大江光が投影されている。イーヨを見つめるのは、妹のマーちゃん(佐伯日菜子)。彼らの作家である父(山崎努)は、講師の仕事と執筆のため妻とともにオーストラリアへ行く。イーヨ、マーちゃん、次男のオーちゃん、三人の生活が始まる。
イーヨーは感性豊かで音楽の才能があるが、健常者と同じような生活はできない。両親不在の中、マーちゃんがなにかと面倒を見るが、決して“静かな生活“とはいかない。
この作品は、これまでの伊丹作品とはガラッと雰囲気が変わる。社会に対しての挑戦を含んだエンタメとは異なり、非常にパーソナルな映画に感じる。
大江健三郎と伊丹十三は愛媛の高校の同級生。その縁で、伊丹の妹は大江と結婚し、二人は義兄弟となる。したがって、イーヨー=大江光、マーちゃんは、伊丹十三の甥・姪であり、映画の中の二人は彼の愛情を通して描かれているように見える。
もちろん、ドラマには両親不在中になにかと面倒を見る団藤夫妻(岡本喬生・宮本信子)や、ちょっとクセのある水泳教師・新井君(今井雅之)らが登場し、“静かな生活“に様々な刺激を与えてくれる。
ただ、これまでの作品の観客を楽しませるためのドタバタではなく、映画を通じて温かみが感じられる。伊丹作品には、悪役も登場するが、憎めない人が多い。それは、すべての人に対して伊丹十三が注ぐ愛情のせいではないか、「静かな生活」を観ると、そんな風に思いたくなる。
もちろん、伊丹的ユーモア精神にもあふれ、楽しく見られる映画である。渡部篤郎は、障がいを持つイーヨーを好演している。マーちゃんは素晴らしい女性である。なお、音楽は、イーヨーこと大江光である。
伊丹十三、もっと長生きして「静かな生活」のような映画を作って欲しかった。原作の小説は同タイトルの連作短編集、読んでみようかなぁ