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いまさらだけど「20世紀少年」(その2)〜リアルな“架空の文化史“を楽しむ

(承前)

「20世紀少年」は、20世紀の終わりに世界征服のために動き出す悪の組織、それを主導する“ともだち“と、世界の平和のために立ち上がった9人の戦士との戦いを描く。そして、“ともだち“とは何ものなのか?

このドラマは、過去と現在、そして未来を行き来しながら描かれる。

まず、この作品が連載されたのは1999年ー2006年、完結編「21世紀少年」が2007年。20世紀の終わりと21世紀の始まりという期間である。

マンガで描かれる時代は、大きく三つに分かれる。

主人公の遠藤ケンヂらが小学校であった1960年代後半から大阪万博開催の1970年、そして彼らが六年生となった1971年。

そして連載されていた“現在“の、1990年代後半から21世紀初頭。さらに当時の“未来“である、2015年前後の世界を描く。

前述の物語のメインテーマはもちろん面白いのだが、最初に読んだ時に私が気に入ったのは、ケンヂの子供時代である。

前回書いた通り、私は浦沢直樹の2学年下、このちょっとしたズレと、同時代を生きた記憶の一致をなぞるのが楽しい。

最大のイベントはもちろん万博である。ケンヂたちは東京の子供なので、いかにして万博に行くかがポイントである。そして、どのパビリオンを攻略するか、万博ガイドを熟読し、検討する。私も同様の体験をしている。ただし、大阪に住んでいたので、攻略法にフォーカス。朝一番で並び、アメリカ館にダッシュするも、すでに長蛇の列。あきらめてソ連館で“月の石“を見た。そんなふうに、記憶が色々蘇ってくる。

音楽についても同様。「20世紀少年」はT・レックスのヒット曲から来ているし、1969年の“ウッドストック・フェスティバル“も重要な要素である。浦沢も私も、“ウッドストック“時は小学生、遅れてきた世代である。それでも、音楽が世界を変えようとした時代があったことを意識することになる。

こうした読み方は、「20世紀少年」の本筋からはズレているのだろうと思っていた。しかし、浦沢へのインタビューをまとめた「描いて描いて描きまくる」(小学館)を読むと、本作についてこう語られていた。

<おもちゃ箱をひっくり返そうというイメージで作った感じがしますね。自分の持っているカードを全部切ろうと>(「描いて描いて描きまくる」より、以下同)

これを読むと、本筋のみならず、「20世紀少年」で描かれているディテール(駄菓子屋の描写なども秀逸だった)を読むことは、浦沢の切ったカードをすべて楽しむこと、つまり私のアプローチは決して間違っていないと思ったのだ。

さらに次のようなコメントがある。<架空の文化史みたいなものを作ろうとしてるのかもしれない。昭和の文化史みたいなものを、ある時期から架空で作ってみようという。その架空の文化史の中で生きた人たちを描いているという感覚に近いかもしれない>

私が、「20世紀少年」が名作だと思う理由を、実に的確に表している発言だと思う。本作でまず私が楽しんだのは、“昭和の文化史“である。ただ、その先の広がりが素晴らしい。単なるノスタルジー漫画ではないのだ。

描かれた“架空の文化史“の中の、“昭和の文化史“は当然リアルである。しかし、そこから派生するフィクションも相当に“リアル“なものなのだ。歴史をたどることにより、“未来“を予測する。オーソドックスなアプローチを楽しもう。

次回は、最後に若干のネタバレと共に、本作が“よげんの書“であることを記して終わりとしよう


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