時空を超える多様な「環と周」〜オムニバスの名手よしながふみの新作
マンガ家よしながふみの代表作となった「大奥」 (過去の記事)、この大作は2021年に完結し多くの賞を獲得すると共に、現在NHKではドラマのシーズン2が放送されている。
もう一つの代表作でこちらも映像化されている「きのう何食べた?」は、今も講談社のモーニング誌上で連載が続いている。私も「きのう何食べた?」は紙の単行本でフォローしていたのだが、積読状態に。ちょっとご無沙汰している。
そんなことで「大奥」完走後はよしなが作品に触れていなかったのだが、書店の新刊マンガ棚に「環と周」という作品が並んでいた。集英社の「ココハナ」という“大人のための少女まんが“誌に掲載されていたらしい。なお、「環(たまき)と周(あまね)」、人の名前である。
さて、あなたが母親で中学3年生の娘がいたとしよう。ある日、制服姿の娘が同じ服を着た友人の少女とキスをする現場を目撃した、あなたはどうしますか? あなたが男性なら、この事実を妻から告げられた時、どのような反応をするでしょう?
マンガはそんな場面から始まり、三人家族の行方を描いていく。妻の名は環、夫は周である。
例によって、予備知識ゼロで読み始めたので、第1話の最後ではこの家族の行方を楽しみに思いながら本を閉じた。
そして第2話を開くと。。。。やられた。登場するのは袴姿の女学生。旧家族の西園寺周と、同級生で友人となる鈴森環の物語である。今度の“環と周“は両者とも女性である。
全五話の「環と周」は、様々な時代の、多様な“環と周“が登場する連作となっている。それぞれの短編が実に深みのある世界であり、なんとも贅沢なページを味わうことになる。
これまでも、よしながふみは、「こどもの体温」「愛すべき娘たち」といったオムニバス漫画を発表しており、いずれも素晴らしい連作になっている。「大奥」にしても、歴代将軍を軸にした連作とも言え、個々に独立したエピソードを連ね、それらを一体として一つの世界を作り出したとも言える。よしながふみは、そんなことができる稀有なマンガ家と言える。
個々の物語が取り上げている題材は、それだけで少なくとも単行本一冊分の長編にはできると思うのだけれど、それを惜しみなく短編で仕上げてしまう潔さ。大島弓子らが少女まんがを高みに持ち上げた背景には、連載をベースとしたそれまでのマンガのあり方から脱却したことがあるが、よしながふみはそれをしっかりと継承している。
短編の地位を向上させ、連載を前提とすることから脱却することにより、少女マンガにおける長編は名作を生み出したとも言える。「環と周」のような素晴らしいオムニバスの先に、よしながふみの新たな大作は出現するのか。
楽しみに待ちたい
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