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「いちばん!売りたい本 本屋大賞」に輝くか〜津村記久子著「水車小屋のネネ」
2月1日、2024年の本屋大賞ノミネート作が発表されました。私が読んだものでは、川上未映子「黄色い家」(中央公論新社)と塩田武士の「存在のすべてを」(朝日新聞出版)が候補作、どちらも本賞に値する作品だと思っています。
そもそも“本屋大賞“とは、書店員の投票で選ばれる、「いちばん!売りたい本」です。言い換えれば、書店員という“目利き“の視点から、今こそ読んで欲しい本を選ぶ企画だと思います。
候補作の中で、ずっと気になっていた一冊がありました。津村記久子の「水車小屋のネネ」(毎日新聞出版)。書店の平積み棚の中でも、ひときわ輝いている本でした。その理由は、装丁が魅力的。
北澤平祐の装画、中嶋香織の装丁。<装画は表の袖から裏の袖まで、物語をぐるっと追体験できるような絵巻>(北澤氏のサイトより)になっています。この作品は毎日新聞の連載小説で、北澤氏はその挿絵も担当、この本にはその絵も収録されています。
さっそく読もうと思ったのですが、紙の本は昨年3月に刊行されていたにもかかわらず、なかなか電子版が出ない。あまりに素敵な本なので、何度も買おうかと思ったのですが、モノは増やすまいと強く思う年頃、じっと我慢の子でした(分かるかなー、分かんないだろうなー by 松鶴家千とせ)。
言い訳しておきますが、本屋大賞の趣旨とは違い、大変恐縮に思っております。電子書籍販売から上がる消費税の一部を、書店の補助金にするとかできないモノでしょうか。そして、余裕のある方は、是非紙の本をご購入ください。
そんな「水車小屋のネネ」ですが、本屋大賞に合わせたかのように、今年2月にようやく電子版が刊行されました。
今こそ、読んでほしい。それも、若い人たちに読んで欲しい一冊です。
今から考えると、本当にのんきな青少年時代を過ごしてきました。本書を読みながら改めて感じるとともに、親や周囲に感謝しています。一方で、自分ではどうしようもないことで、苦しんでいる若者が沢山存在するのも現実です。
この物語の主人公18歳の理佐と8歳の律の姉妹も、むずかしい環境に置かれますが、自らの意思で山間の町へと引っ越していきます。理佐が働こうとしている場所は蕎麦屋。ただし、面接で<「鳥の相手があるんだけど」>(「水車小屋のネネ」より)と、おかみさんに言われます。その“鳥“こそが、水車小屋に住む“ネネ“です。
ネネは、ヨウムという種類の鳥、よこはま動物園のサイトでは、<知能が高く人の言葉をよく覚えることで有名です。また、人の言葉を真似るだけでなく、言葉の意味を理解して人間とコミュニケーションをとる能力があるといわれています>と紹介されています。
理佐と律とネネ、そして彼女らと一羽を取り囲む人々の“大河ドラマ“を、是非楽しんでください。そして、元気をもらって下さい。私が本屋大賞の選者なら、今売りたい、そして読んで欲しい1位は「水車小屋のネネ」です。言わずもがなですが、「黄色い家」と「存在のすべてを」も必読、三冊まとめて買うと、書店員さんは大喜びです。
この小説には、私の生活の中において、また多くの人にとって重要なものがさりげなく顔を出します。その一つは音楽です。理佐と律とネネの周りには音楽があります。
プロコル・ハルムの「青い影」から始まる、ネネと姉妹が愛したロックやクラシック、知らない曲もありましたので、不完全なプレイリスト(Apple Music)を作ってみました。曲名が明らかでないのは、私の想像です。読書のお供にどうぞ。
もう一つ、気になるのは映画。ジョン・カサヴェテス監督の「グロリア」は、本作のテーマ曲のようにも感じます。
ということで、次回は映画「グロリア」について
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