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クリント・イーストウッド初監督作品〜怖〜い「恐怖のメロディ」

2022年に文藝春秋に掲載された、小林信彦「わが洋画・邦画ベスト100」。洋画については、配信されているものは殆ど観たと思っていたが、「恐怖のメロディ」(1971年)が未見だった。(U-NEXTで配信中)

クリント・イーストウッドの初監督作品、主演も本人である。

イーストウッド監督作品は、「許されざる者」(1992年)、アカデミー作品・監督・主演女優・助演男優賞受賞の「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)、「ジャージー・ボーイズ」(2014年)などなど、観た映画は、全てが高水準の作品だった。多くの作品を観ている監督の一人だと思う。

あらためて彼の作品リストを眺めると、私が観ているのは「ペイルライダー」(1985年)あたりからで、初期作品は観ていない。そこそこカバーしているのではと思ったが、「恐怖のメロディ」以降、50数年で40作近く制作しており、私が観ているのは10本程度だった。

その原点の作品は、どのようなものだったのか。

映画の冒頭、主人公デイブ(クリント・イーストウッド)が、ジャガーのオープンカーに乗って疾走する。バックに流れるのは高揚感をかき立てる音楽。このシーンが格好良い。そして、第一作から音楽が重要な位置を占めていることが分かる。

二日続けてラジオの話を書いたが、この映画の舞台もラジオ。デイブはディスク・ジョッキーである。

ラジオという媒体は、パーソナリティーとリスナーの距離を縮める。私がラジオが好きな理由の一つである。語り手の“素“が出るように感じ、時には自分自身に語りかけているような錯覚に陥る。

デイブの番組に、同じ曲を繰り返しリクエストしてくる女性がいる。曲は、エロール・ガーナーの名曲“ミスティー(Misty)“(1954年)。放送終了後、デイブは行きつけのバーで、イブリンという名の女性と遭遇する。彼女こそが、“ミスティー“をリクエストしてくるリスナーだったのだ。そして二人は。。。。

タイトルが「恐怖のメロディ」なのだから、ドラマは怖〜い方向に進んでいく。

“栴檀は双葉より芳し“、監督第一作からディテールまで気持ちが行き届き、暗示的な映像とストーリーの結びつき方も見事である。

挿入歌ロバータ・フラックの「愛は面影の中に」、モントレー・ジャズ・フェステティバルのシーンも、音楽好きにはたまらない。

小ネタとしては、上記のバーのバーテンダー役がドン・シーゲル。イーストウッド主演で彼の出世作となった「ダーティーハリー」(1971年)の監督である。イーストウッドは、彼の監督スタイルから影響を多く受けているが、本作ではドン・シーゲルが役者として出演している。

デイブは、観客からすると「おい、もうちょっとしっかりしろよ」という男性なのだが、そこにイブリンがつけ込んで来る。演じるジェシカ・ウォルターのキャラが濃い!女は怖い!

原題は“Play 'Misty' For Me“、これがどうして「恐怖のメロディ」になるのか。興行的には“恐怖“とう言葉が入っていた方が良いとの判断だったのだろうが、ちょっとこれはなぁーというタイトル。例えば、「‘ミスティー♪‘の女」なんてダメでしょうか。

ちなみに、イブリンが聴きたがった“ミスティー“はオリジナルのピアノ・ヴァージョンですが、後に歌詞が作られ、ジョニー・マチスらがカバーします。詩は、こう始まります。

‘misty'は、<もやの立ちこめた;うすぼんやりした;涙にかすんだ>といった意味の形容詞。

Look at me,
I'm as helpless as a kitten up a tree
And I feel like I'm clinging to a cloud
I can't understand,
I get misty just holding your hand.

最後は、こうなります。
I'm too misty, and too much in love.
I'm too misty, and too much in love.

これを頭に入れて、この映画を観ると、もっと怖〜く感じるかもです


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