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私をロンドン・リッチモンドへと誘うシリーズ第5作〜アンソニー・ホロヴィッツ「死はすぐそばに」

年末の各所におけるミステリー・ベストの常連、アンソニー・ホロヴィッツの新刊が先月発売となった。タイトルは「死はすぐそばに」。“ホーソーン&ホロヴィッツシリーズ“、昨年刊行の「ナイフをひねれば」に続く第5作である。

元警察のホーソーンが探偵役、著者の生き写しホロヴィッツが相棒で語り手というシリーズだが、今回は少し趣が変わっている。

著者ホロヴィッツのアイデアは尽きることがないのか。今回の趣向も素晴らしい。読者を飽きさせない作品となっていて、本格ミステリー・ファンには超オススメである。

“Close“という単語があるのはご存知の通り。<閉じる><近い>といった意味だが、イギリスに住んでいると、通りの名前に“XXX Close“と付いてる場所がある。通りの先が行き止まりになっており、袋小路となっている場所に付けられるのが通常。同様に、土地の一角が塀などで囲われた住宅区域を、“XXX Close“とネーミングした場所もある。

「死はすぐそばに」の舞台は後者、ロンドンの高級住宅“リバービュー・クロース〜Riverview Close“。テムズ川に面し、囲われた区画には、1軒家が3つ、3世帯が住むタウンハウス(高級な棟割長屋)が1軒、ロータリーの周りに配されている。

なお、原題は“Close to Death“、“Close“の意味は“近い“という意味と、前述とが掛けられている。

住民は、チェスのグランドマスター、医師、歯医者、本格ミステリー専門書店を営む二人の老婦人、元弁護士、そしてヘッジファンドのマネジャー。一癖ありそうな人々が、同一区画で暮らしており、そこにあるのは平和だけではない。アガサ・クリスティら、黄金期のミステリーを彷彿とさせるセッティングである。

これ以上は興を削ぐので、周辺のお話。ホロヴィッツの小説は、これまでも私にイギリス生活を思い出させてくれたのだが、今回は特別である。リバービュー・クロースは、ロンドンの南リッチモンドにある。私の住んでいたウィンブルドンの隣町である。

休みの日は家族で遊びに行った。商業施設、小洒落たレストラン、本屋やスーパーマーケット、ピーターシャム・ホテル。リバービュー・クロースが面するピーターシャム・ロードあたりからは、テムズ川とその後景が美しく見える。街の南には広大なリッチモンド・パークが広がる。本作では実在のものが多く登場する。

スーパーマーケットと言えば、イギリスの最大手が「テスコ(Tesco)」、少し高級路線が「ウェイトローズ(Waitrose)」、これらも実名で登場する。日本で言うと、「イオン」と「成城石井」というイメージだろうか。我が家は両店ともよく通った。

ホーソーンは、リッチモンドを中心にその周辺を動くのだが、その道中も私の記憶を呼び覚ましてくれる。そんな私にとって身近な地域で起こった事件なのだ。

ミステリ・ファンをニヤッとさせる箇所も多々ある。ホロヴィッツは日本での人気も当然知っているので、こんな表現もあった。

<島田荘司の『斜め屋敷の犯罪』、あるいはこの分野の名手であり、八十編近くもの作品を書いている横溝正史の『本陣殺人事件』をぜひ読んでみてほしい。>(「死はすぐそこに」より、以下同)

加えて、年末にかけての季節に読むにはピッタリである。

<街路には落ち葉が舞い、空は金属的な光沢を帯びているーもう、すぐにクリスマスの装飾がきらめきはじめることだろう。>

“読まずに死ねるか“の一冊、秋の夜長の読書にどうぞ。

解説によると、本シリーズは<全部で十作程度を想定しているそう>。第6作も待ち遠しい


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