NICU⑩|初めての抱っこ
一夜明けて8月28日、この日は「妻の退院日」だった。
通常の面会は13時からだが、退院時刻が10時30分と決まっているため、退院日の今日は午前中に面会することに。
午前中は検査や処置をしている新生児も多く、何となくいつものNICUとは違う雰囲気だった。
そして、いざ息子の元へ向かうと、そこには嬉しい “サプライズ” が待っていた。
なんと、「目を開けて起きていた」のである。
これまで、眠る薬の投与により常に寝ている状態だったため、先述の “深夜の写真” 以外、実際に起きている姿は見たことがなかった。
しかしながら、眠りの薬の量も徐々に減らすことができており、目覚めている時間が少しずつ増えたとのこと。
また、この日から「人工呼吸器」も外れていた。
経過も良好で、全体的な数値も上がってきており、かなり順調に回復しているとのことだった。
まるで、 “母親の退院を祝福するかのように” この日に合わせ、顔を見せてくれたのである。
「わ! 目ー開けてる! 起きてるー!!!」
「お母さんだよー!」
と妻がすぐに声を掛け、私も続けて声を掛ける。
「お父さんだよー! わかるかなぁ?」
ここ数日は、もぞもぞと身体を少し動かしたりもしてはいたが、 “目を開けて起きている” という姿を見ると、改めて「生命」というものを感じるし、可愛さも倍増する。
鼻からの管はまだ手術が終わり回復しないと外せないが、入院初期と比べるとだいぶ “身軽” にはなった。
ただ、数日前にまぶたを動かしている時は、ガッツリ “二重の線” が入っていたものの、この日は「一重」だった。
(看護師曰く、まだ浮腫みがあるとのことだったが)
この日以降も、「二重day」「一重day」と繰り返しながら成長していくが、少しずつ顔つきが変化していくのが夫婦にとっても毎日の楽しみだった。
息子の視力的にも、まだそこまで見えていないだろうが、私たちをじっと見つめてきたりする場面もあり、夫婦でずっと癒されていた。
そんな中、看護師から
「せっかくなので、 “抱っこ” しましょうか」
といきなり声を掛けられる。
全くもって予想していなかったため、
「え、抱っこ出来るんですか!?」
と、二人揃って聞き返してしまった。(笑)
管も数か所しか付いていないため、少し窮屈にはなるが抱っこは可能ということだった。
「凰理くんも、ベッドよりお母さんとお父さんの方が安心できますからね」
と、笑顔で準備をしてくれた。
この看護師は、この日以降も息子の担当をする機会が多く、ずっと信頼できる存在だった。
(先日もグリーフケアとして、お話を聞いて下さり、本当に感謝しかない)
まさか、手術前に抱っこが出来ると思っていなかったため、これもまたサプライズとなった。
妻が息子を初めて抱いたその光景は、一生忘れることはないだろう。
あの激動の日々の中、自身のお腹の中でずっとずっと大切に育ててきた我が子を抱いている。
「母親」としての妻の姿を見て、私も込み上げるものがあった。
続けて私も抱っこさせてもらった。
最初はうまく抱けず、ベストポジションが見つけられなかったものの、次第に慣れていく。
モニターの機械音、管の空気が通る音、息子の呼吸音、温かい体温、身体を動かす感触…
その時の情景や感覚は全て、今でも鮮明に覚えている。
「2,000g」ほどの小さな身体だが、想像以上に重く感じ、そして何より息子の「強い生命力」を感じた。
本当に “神秘的” だった。
妻が妊娠してから、これまで感じたことのない「自分自身の感情」が、次から次へと生み出されてきたが、息子がこの世に生を享けてからも、加速度的に新たな感情が生み出されていく。
「子どもの誕生」が、ここまで私自身に影響を与え、こんなに幸せな気持ちになるのかと改めて思わされる。
そして、この先ずっと父親として「息子の成長」を見ていけることが楽しみでしょうがなかった。
また、これが毎日続くなんて “何て幸せなんだろう” と心から思った。
それは妻も同じで、二人でこの先の明るい未来に思いを馳せていた。
妻にとっても自身の退院日に「息子の初抱っこ」が出来たことで、快く病院を後にすることが出来た。
つづく