著…伊坂幸太郎『魔王』
複数の人物の視点で描かれる小説。
本来、政治は国民の意思が反映されるもののはずですが、一般の国民には正体を知り得ない「何か」が潜んでいて、その意思が働いて政治を操っているような…、そんな不気味さが漂ってきます。
※注意
以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。
日本国内に反米ムードが異様に広がる。
アメリカ発祥のハンバーガーショップが文字通り燃やされる。
主人公の近所で英会話教室を開いているアンダーソンさんの家まで燃やされる。
…というくだりを読んで、わたしはゾッとしました。
「消防車は」と主人公が聞くと、野次馬たちはこう答えます。
「誰かが呼んだだろ」
「呼ばなくていいよ、別に」
「アメリカなんて燃えちまえばいいんだ」
と!
主人公が「あれは、アンダーソンさんの家で、アメリカじゃない」と言って、携帯電話で消防車を呼ぼうとすると…。
「おまえうるさいな、おまえも燃やすぞ」と主人公は手を叩かれて、携帯電話が路上に飛んで転がって、通報が遅れてしまいます。
燃え上がる炎を見ながら、主人公はシューベルトの歌曲『魔王』の歌詞を思い出します。
『魔王』に登場する子どものように、主人公は異常事態に気付き、助けを求めようとするのに、救われません…。
ゾッとしますよね。
それに、主人公の言う通り、アンダーソンさんの家はアメリカではありません。
たとえアメリカに恨みがあったとしても、一般人を攻撃するのは正義とは言えません。
現実においても、肌の色や、国籍や、宗教を理由に、人が人を襲撃したり、建物を破壊したりといった事件が後を絶ちませんよね?
そうした事件を耳にする度にわたしはこの、伊坂幸太郎先生の『魔王』を思い出します。
おかしいことが起きた時、周りの雰囲気に呑み込まれるのではなく、『魔王』の主人公のように「おかしい」と言える人間にわたしもなりたいです。
〈こういう方におすすめ〉
政治的なテーマも扱っている小説を読みたい方。
〈読書所要時間の目安〉
2時間くらい。