著…梶尾真治『黄泉がえり』
わたしはこの小説を読んでいる間、何度もまわりを見回しました。
わたしにとって大切で大切でたまらない人たちが、黄泉からかえって来るのではないかと思って。
あの香りがしたら、あの人が来てくれたしるし。
あの声がしたら、あの人が来てくれたしるし。
…この小説を読んでいる間、そんな風に想像して淡い夢を見ることが出来て、わたしは幸せでした。
だって、みんなの帰りを待つことが出来たのですもの。
…けれど、もし本当にその人たちが本当にわたしのもとに黄泉がえってきてくれたとしても、わたしはその大切で大切でたまらない人たちを泣きながら追い出してしまうかもしれません。
「なんでわたしなんかのところに来たの! 親に会いに行ってあげなさいよ!」とか、「ほら、おばあちゃんに会いに行ってあげてよ!」とか言いながら。
そんな有り得ないことさえも想像させてくれるこの小説は、本当に稀有な存在ですね。
お盆の時期に、そして、奇しくも、これから起きるであろう巨大な地震についての注意喚起がなされている今、この小説を読めたのは僥倖でした。
何も起きないことを祈るばかりですが…。
さて、この小説では、過去に亡くなった人たちが、その人たちが黄泉がえるのを強く強く望んできた人のもとに黄泉がえります。
皆、戸惑いながらもみんなを迎え入れ、黄泉がえってきた人たちの死亡届の取り消しを行い、社会復帰させようとします。
しかし…。
あくまでもその人たちは、黄泉がえってきただけ。
生き返ったわけではありません。
そこがとても悲しいところ…。
やはり、生者と死者の世界には、どうしようもない隔たりがあるのです。
それでも、わたしはこの、強く強く望んだ人のもとに死者が黄泉がえる…という設定がとても好きです。
もしわたしが死者の立場だったとしても、やっぱり、愛してくれる人のところへいきたいですから。
ラストも好きです。
悲しいけれど、寂しくないから。
みんなずっと一緒にいるから。
ずっと。
〈こういう方におすすめ〉
かえってきて欲しい大切な人がいる方。
〈読書所要時間の目安〉
2時間半〜3時間くらい。