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著…スーザン・ケイ 訳…北篠元子『ファントム (下)』

 こんばんは。

 『ファントム(上)』の続きをご紹介します。
 ※前回のリンクはこちらです。



※注
 以下の文にはネタバレを含みます!

 殺人、盗みといった罪を幾重にも重ね、様々な土地を転々とした末、エリックは生まれ故郷に辿り着きます。
 エリックは、きっと母は人々から「怪物」と忌み嫌われる自分がいなくなったことで自由の身となり、再婚して新たな子どもを生み、幸せに暮らしているだろう…と思っていました。

 ところが生家へ行ったエリックは、マドレーヌの遺体と対面することになります。
 亡くなったのは3日前。
 マドレーヌは再婚することも無く一人で暮らし、エリックと再会することも無いまま亡くなったのです。

 エリックはマドレーヌを許す気になりましたが、記憶の中の姿から変わり果てたその遺体にはキスをしようとも手に触れようとも思いませんでした。
 きっとマドレーヌはそれを望まない…とエリックには分かっていたし、母のぬくもりを求めるにはあまりに遅すぎたから。

「母は私にとって、幻影としてしか存在しなかったのだ。母は、実在しなかった。そして今、やっと母を永遠に忘れ去ることができたのだ」
(単行本 P79から引用)

 というエリックの述懐を読むと胸が痛みます。

 忘れ去ることができた…?

 とんでもない。

 むしろ一生癒えることのない深い傷が刻まれたのだと思います。

 もし、まだマドレーヌが存命で、エリックを「おかえり」と家に迎え入れてくれていたら…その後の悲劇は生まれなかったでしょう。

 しかしエリックは帰る場所を永遠に失いました。

 エリックはマドレーヌが生前よく「パリに決定的なオペラハウスが必要だ」と話していたことを思い出し、オペラ座の建設に関わります。

 やがて「オペラ座の怪人」に変貌。

 人々を恐怖に陥れるエリック。

 モルヒネ中毒になり、その体はボロボロ。

 人生に未練が無かったエリックは、初めて新人歌手クリスティーヌの声を聴き、その姿を見た時、大きな衝撃を受けます。

 彼女がマドレーヌとそっくりだったから。

 惹かれたきっかけは母の面影を求めてのことだったかもしれませんが、エリックは次第に彼女自身の魅力に激しく恋焦がれます。

 彼女に男性として愛されることは出来なくても、彼女の音楽の天使となり、歌い手としての彼女を導こう…という気持ちと、彼女を自分のものにしたいという葛藤に苦しむエリック。

 この哀しい恋の結末を読み終えた時、わたしはこの作品をハッピーエンドと捉えるべきかバッドエンドと捉えるべきか分からなくなりました…。


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