補陀落【仏教用語解説】vol.34
【仏教用語解説】のコーナーでは、さまざまな仏教用語を解説していきます。
第34回は「補陀落」です。
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現在、【はじめての法華経】というコーナーで、『妙法蓮華経』「観世音菩薩普門品第二十五」というお経を少しずつ読んでいます。いわゆる「観音経」と呼ばれるお経です。
このお経では、観世音菩薩(以下観音さま)の名前をとなえたり、一心に念じれば、いつどこにいても観音さまが救ってくださるということが説かれています。また、衆生に合わせて、さまざまな姿に変身して法を解いてくださるとも言われています。
さて、ここで気になるのは、「観音さまは普段どこにいらっしゃるのか?」ということです。
この疑問に対する答えのひとつとなるのが、今回の仏教用語「補陀落」になります。
伝説上の山・補陀落
「補陀落」は、観音さまが住む山とも、降り立つ山とも言われています。
実はこのことは法華経ではなく華厳経の方で説かれていて、観音さまの名前も「観世音菩薩」ではなく「観自在菩薩」と言うそうです。まあでも、たしかに聞いたことある名前ですよね。この記事では混乱を避けるため、「観音さま」で統一します。
サンスクリット語では「ポータラカ」と言います。「補陀落」は、これを音写した漢訳語です。
一応、伝説上の山ということになっているそうですが、玄奘が著した『大唐西域記』には、インド半島の南端近くに実在するかのように書かれているそうですよ。ロマンですね。そのうち、機会があれば該当箇所を読んでみたいです。
世界各地の補陀落
「補陀落」は伝説上の山ではありますが、世界各地にゆかりのある名前が使われています。
中国には、「普陀山」という、観音さまの霊場として信仰されている山があるそうです。
また、チベット仏教のダライ・ラマは観音さまの化身とされており、その住居は「ポタラ宮」と呼ばれています。「ポータラカ」が由来となっているんですね。
それから、日本においても、和歌山県の那智山を補陀落に見立てる信仰があるようです。
あとこれは、あくまで諸説あるうちの一説なのですが、栃木県の日光という地名には、「補陀落(ふだらく)➝ふたら➝二荒(ふたら)➝二荒(にこう)➝日光(にっこう)」という由来があるとも言われているそうですよ。ちょっと無理やりのような気もしますが、おもしろいですね。
観音さまのもとへ「行く」という信仰:補陀落渡海
法華経の「観音経」では、観音さまのご利益はもっぱら衆生のもとに「来る」という形で説かれています。
しかし、華厳経に説かれる「補陀落」に対する信仰の形は、法華経のそれとはベクトルが逆だったようです。
日本では、平安時代から江戸時代にかけて「補陀落渡海」という行が行われていたそうです。
一体どのようなことをするのかと言うと、海岸から見て南方の海上に補陀落があるという考えのもと、行者をのせた舟をもう一隻の舟が牽引してかなり沖の方まで連れて行きます。そしてそのまま、行者をのせた舟を海上に残して、牽引していた舟だけ帰ってくるのだそうです。行者は、船をこぐ道具も、飲食物も持ちません。舟は潮の流れにのって、南へ南へと流され、二度と戻ってくることはないといいます。
これは、観音さまがいらっしゃる補陀落に「行く」という信仰でしょう。
同じ観音さまに対する信仰なのに、一方は「来る」で、もう一方は「行く」という形になっているように思えます。
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今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
それでは、また。