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【新解釈】「教会を造る3人の石切職人」
1.教会を造る石切り職人の逸話
皆さんは「教会を造っている石切職人」の話を聞いたことはありますか?
ざっくり端折るとこんな内容です。
旅人が、ある町を通りかかり、一人の石切り職人に聞きました。
「あなたは、何をしているのですか」
その問いに対して、石切り職人は、
「金を稼ぐために石を切っているんだ」
2人目に聞くと、
「毎日この大きな石と格闘してるんだよ」
そして3人目の職人は、
「私は世界中から人々が集まる素晴らしい教会を造っています」
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3人目の石切り職人の答えのように、仕事の目的や未来のビジョンをイメージしながら目の前の仕事に取り組むことが重要である、という事を伝える逸話ですが、ドラッカーが著書『マネジメント』の中で示したことでも有名です。ドラッカーは、このエピソードを、経営者に向いている社員の素養を論じるために用いました。
2.石切り職人の逸話の問題点
最近自分の今いる会社で、人事部が1~2年目の社員向けの研修でこの話をする、という話を聞き、ちょっと疑問に思いました。
ビジネスに当てはめると会社の「ビジョンやパーパス」が「教会を造る」で、「日々のタスク」が「石切りという仕事」ということになりますが、果たして日々のタスクとビジョンを紐づけて仕事をしている人は会社の中でどれだけいるでしょうか?
おそらく、1割にも満たないと思います。
特に若い世代になるほど、目の前の自分がやるべき仕事と会社のビジョンやパーパスがダイレクトに繋がるイメージを持つのは難しくなるはずです。
だとすると、この石切職人の話は「良い話だけど今イチ響かない現実味の薄い話」で終わってしまう可能性が高いと思います。
もっと言うと、経営層やマネジメント層が期待する理想の社員像の押し付け、とすら言われかねません。
もちろんビジョンやパーパスを理解し共感する、というのは大事なことです。会社の目指す方向性、社会における存在価値を示す重要なキーフレーズであり、ホームページを見ればどこの会社でも必ず掲載しています。
いくつか例をあげると、
Apple:「Think Different」
Patagonia:「Use Business To Protect Nature」
Loreal:「Create the beauty that moves the world」
Sony:「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」
TOYOTA:「笑顔のために。期待を超えて」
皆さんは、「会社のビジョン、パーパスは何ですか?」と聞かれて、パッと答えられるでしょうか?
本来ビジョンやパーパスは、必要な時に立ち返れる場所、目指す方向や行動指針を示す方位磁石のような位置づけであるべきです。
だとすると、石切職人と教会の逸話は、やはり若手向けの研修素材に使うには何かが欠けていると言わざるを得ません。
3.進化版「石切り職人の逸話」を考えてみる
では、石切り職人の話を通して、若い世代の人たちに伝えるべきメッセージは何だと思いますか?
私が出した答えは、これです。
「ビジョン・パーパスの理解」
+
「目の前の仕事から得られる学びと成長」
自分が取り組んでいる仕事を通して「何を学び、どう成長していきたいか」、これをビジョンやパーパスという大きな世界観の中で実現できるという実感が持てれば、自らのキャリアアップと会社が目指す方向性が連動し、伝える側(マネジメント層)と受け取る側(若手社員)のニーズがマッチするはずです。
この考え方を取り入れて、石切り職人の逸話の解像度を上げて進化させたバージョンがこちらです。
通りかかった旅人が三人の石切り職人に尋ねます。
「あなたは何をしているのですか?」
一人目の職人は、
「見ればわかるだろう?このいまいましい石を切り出しているんだ。」
二人目の職人は、
「え?私が何をしているのかって?世界中の人が訪れる素晴らしい教会を建てているんですよ。どうです?すごいでしょう?」
三人目の職人は、
「ええ、私たちは教会を造っているんですよ。そのために石を切り出すのが私の仕事です。この仕事を通して土台作りの基礎を学んで、ゆくゆくは自分でデザインした教会の設計ができるようになることが私の夢なんです。」
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一人目の職人は、与えられた仕事を嫌々こなすだけ、それ以上の仕事は一切やりません。
二人目の職人は、自分がどう見えるかばかりを意識していて、目の前の仕事はできるだけ手を抜いて要領よくこなそうとします。
三人目の職人は、「教会を建てる」というビジョンも理解しながら、今やっている仕事から何が学べるのかを意識しています。そして、その学びの先に自分自身の目指す目標やキャリアプランにしっかりと結び付けています。
このレベルの解像度で、石切職人の話ができれば、若い世代にも「ビジョンやパーパスの理解」と共に、「仕事から学び、成長していく姿勢」を伝えられるのではないかと思います。
進化版の「石切り職人の逸話」、いかがでしたでしょうか?もしこの記事がいいなと思ったら、スキ・コメント・フォローなどいただけますと嬉しいです。今後も私自身の経験から学んだことや、気づきなど発信していきますので、応援よろしくお願いします!