本と目が合う棚(2024年3月3日)
こんにちは。「本屋フォッグ」店主のイイムラです。
現在は東京・高円寺の「本の長屋」というシェア型書店で、本棚の区画を借りて本を売っています。
週に2回くらい店番もしてます。ぜひいらしてください。
今回の記事の内容:魅力ある本棚について考えたこと(第2弾)
棚のことばかり考えて暮らした
1カ月くらい前の記事で「本はどんな棚から買われるのか?」という、僕にとっての大きなテーマについて書いた。
それからもずっと考えている。
僕が1カ月前に考えたことは、
お客さんが意識的/無意識的に持っている「こんな本が読みたい」という文脈と、棚が持っている文脈が交差するときに、本は買われるのではないか?
ということだ。
言い換えれば、棚が店主の代わりに「これに興味があるなら、こういう本もあるよ」と差し出す感じかもしれない。
この考えを念頭に置いて本を仕入れて、本を並べるときの気持ちは誰かに手紙を書いたり、会話するのと似ていると思う。少し緊張するような気もする。
感傷的すぎる気もするが、本の著者や出版に関わる人たちだって、読者に向けて何かを祈っている場合もあるだろう。
とはいえ、偶然もある
「エモ」で成り立つものばかりではない
手紙を書くように……会話をするように……と言ったけど、それだけじゃダメなんだろう。
本への想いがあれば本屋でいられるなら、きっと書店は減らない。
本に対する「エモい気持ち」だけではダメだ。
新刊を売るならマーケティングや企画力が、古本を売るなら膨大な知識が必要なのは、今の僕にだって分かっている。
では、企画や知識以外で、本が買われるきっかけになるものって何だろう?
僕は「結局のところ、偶然もあるよな」と思う。
「目が合った」という偶然
僕の知人に、仔犬のぬいぐるみを子供のころからずっと可愛がっている人がいる。
その人に、ぬいぐるみとの「馴れ初め」を聞いたことがある。
幼い子供のころ、デパートかショッピングモールに、コムサドールという店が入っていたそうだ。アパレルブランドの「コムサ」が昔やっていた事業らしく、今はもうない。
コムサドールの店では、綿を詰める前のぬいぐるみが沢山並んでいたらしい。その知人は、数ある中から選んだ犬のぬいぐるみに綿を入れ、願い事を書いた紙を一緒に入れて、自分でぬいぐるみを綴じた。名前をつけて記念写真も撮った。
同じ種類の犬の中から選んだ理由は「目が合って、この子だと思った」からだと言う。
思い出として素敵だし、何か大切なものがある人は多かれ少なかれ似た経験をしているのではないだろうか。
本と目が合うこともある?
本には装丁が施され、単行本ならそれぞれの手触り、文庫や新書でも並べた時の佇まいがある。
「運命の出会い」などと言い表すと、またエモになってしまいそうだ。でも、一冊の本が何だか気になって素通りできないということは確かにある。
僕は、駆け出しの本屋として、本という物が持っている力を大いに借りる必要があると感じている。
ああでもない、こうでもないと考えながら棚を作っていくことも大事だけど、本が持っている佇まい、本を作った人たちの努力の表出を信じることも大切だと思う。
自分の発想、工夫だけで本を買ってもらうんだと思ってはいけない。
どの本を平積みにして、どの面を見せるか。
一言ポップを付けるとしたら、何を書くか。
これまで客として、これまで本屋で目にしてきた工夫は、そういうことだったのかもしれない。
ネット本屋ではできない工夫も、それなのかもしれないと思う。
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