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『菜根譚』 – 日めくり文庫本【10月】

【10月14日】

菜根譚後集 六三

 古徳う、「竹影、階をはらうもちり動かず、月輪、沼を穿うがつも水にあとなし」と。 吾がじゅ云う、「水流、急に任せて、境常に静かなり、花落つることしきりなりと雖も意おのずか閒なり」と。人常に此の意を持して、以て事に応じ物に接すれば、身心何等なんらの自在ぞ。

 昔の名僧も言っているが、「風に吹かれて竹の揺れる影が、しきりにきざはしを掃くが、(もとより影であるから)、きざはしの塵は少しも動かない。月の光が、(沼の底まで達して)、沼を穿っているようであるが、(もとより月影であるから)、水に跡を残さない」と。また、わが北宋の儒者も言っているが、「水の流れは急であるが、あたりは常に静かである。また、花はしきり落ちるが、眺めている心は自然にのどかである」と。この外境に煩わされない心境で、物事に対応して行けば、なんと身も心も自由自在であろう。

——洪自誠『菜根譚』(岩波文庫,1975年)290 – 291ページ


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