
【読書記録】『「推し」で心はみたされる?』を読んで考えたこと。
熊代亨さんの『「推し」で心はみたされる? 21世紀の心理的充足のトレンド』を読みました。
個人的には「推し」とか「推し活」というのがよくわからなくて、アイドルの追っかけとかそういうのに別名をつけて、企業がビジネスチャンスにしてるだけなんでしょ? と思っていたんですよね。
この本を読んで、「推し」の広さというか、そもそも「推し」って何なのか、個人が他者との関係から得られるものについて、考えることができました。
この本では、「推し」の前の「萌え」も取り上げて、その違いについても論じられていました。
つまり、
推し=対象を「尊い」とする。第三者とも推し感情を共有。
萌え=対象を「俺の嫁」と称す。男性オタクが女性キャラクターを一方的に選ぶ、一対一の関係。
と。
一対一の関係を自称していたものから、対象を神輿のように担ぎ上げるものに、ファン行為が推移していった、ということでしょうか。
「萌え」にある、男性が女性キャラクターを選ぶ側固定的であった、ジェンダー的な偏りも、「推し」になることで変化しているようですね。
そして著者はマズローの欲求段階に「推し活」と「推されること」を当てはめ、
推し活=所属欲求を満たす
推される=承認欲求を満たす
とします。
いやでも、推される人って、芸能人とかごく一部の人やん? と思っていたんですが、著者はコフートの理論を持ち出します。
コフートについては、私もよく知らなかったんですが、ソーシャルな欲求を充たしてくれる対象を自己対象と呼び、その理論を使うと、
承認欲求を充たしてくれる対象=鏡映自己対象(自分をほめてくれる対象)
所属欲求を充たしてくれる対象=理想化自己対象(親、師匠、メンターなど)
となるようです。
で、これらの対象との関係を築けず、ナルシシズムを充たせなかった場合、ナルシストとみなす、ということで。
要するに、本来人間は幼児期に両親(養育者)を通して承認欲求や所属欲求を充たし、成長と共に親が完璧ではないことを知り(適度な幻滅)、それでも家族としてやっていくことでナルシシズムを成熟させていく。
しかし核家族化が進んだ現代では、身の回りに自己対象となるべき存在が不足する場合があるので、承認欲求や所属欲求を充たしにくく、ナルシシズムを育てられないナルシストに陥りやすい時代である、と。
その上で、キャラクターやインフルエンサーを鏡映自己対象(自分の承認欲求を充たす対象)や理想化自己対象(いわゆる推し)として、自らのナルシシズムを充たすのも一つの手だと著者は言います。
だが、世間は推しビジネスに溢れているので、呑まれる危険性もある。また推しと自分アゲ、他人サゲの心地よさにはまる人もいるが、それは孤立化を招き、カルトに引き込まれるリスクも高い、とします。
じゃあどうすんねん、って?
身近な人の長所を見つけて「推し」として学んだり、挨拶や礼儀をきちんとすることで身近な人との人間関係を良くしていく。挨拶を返されることで承認欲求が充たされたりモチベがあがったりするし、それによってナルシシズムが充たされる。そんな日常生活を大事にすることが幸福につながるのではありませんか? と。
これは実は私も実行していて、職場のパートさんで「毎回すごくいい笑顔で挨拶してくれる人」とか「絶対他人を悪く言わない、良い解釈をして話をうまくまとめる人」がいるので、単純にすごいなと思い、リスペクトするようにしています(できてないかもしれないけど)。
で、他人の長所に注目しようとしたら、必ずどの人にも長所があるので、そのすごさは肯定して言葉にしようと努めているし、長所に注目していけば嫌な空気も減るので気分がいい。
自分がリスペクトしてる人に挨拶をして返されたら、単純に嬉しいし、職場仲間的な気分を持てたら、そりゃ嬉しい。
この本を読み始めたときは、サブカルを使った心理本かと思っていたんですが、最後まで読んでみたら自己啓発本でした。
遠くのキャラクターやインフルエンサーを推すのも一手だけど、身近な人に目を向けて、地に足の着いた人間関係を大事にしよう。そういうことですね。
まあ、若い方の中で「そうは言ってもねえ……」と言いたくなる人がいる(かもしれない)のはわかります。私も若いときだったら、好きな対象(芸能人やキャラクター)と上司や先輩は一緒にならんやろ、と思ったかもしれない。(リスペクトは、したけど)
虐待やいじめに遭っていたら、相手を理想化自己対象になんてできないし。
自分を悪く言う相手や、考え方の合わない相手と、人間関係を築く必要なんてないじゃん? と私も昔は思ったし、無理な人とは絶対無理だってのもわかってる。
それでも、著者の言う「身近な人を推そう」は、日常生活を生きていく上での最も重要な幸福論で、かつ必須科目ともいえるものなんですよね。そこは私も推したい。
推し活の話だと思って読んだ読者の一番の問題は、「で、推し活の話は?」だと思うんですけど、著者は「遠くのアイドルより身近な仲間」を推薦しているので、アイドルやキャラクターの推し活は、生活の許す範囲で適度に楽しみましょう、ということですかね。身も蓋もないですが。
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