モミジがつなぐ、京の料理と文化|花の道しるべ from 京都
昨年12月、京料理のイベントが開催された。「京料理」が国の登録無形文化財に登録されたのを記念して企画された京料理博覧会「京料理フェア」だ。京料理の担い手というと「料理人」のみと考えられがちだが、京料理のもてなしは決して料理人だけで成立するものではない。総合コーディネーターである「主人」、接遇を担当する「女将・仲居」も含めた、三者の連携が欠かせない。今回、登録の対象となったのは、この三者である。
イベントの会場は、三井家ゆかりの地に立つHOTEL THE MITSUI KYOTO。水をたたえた中庭を囲むように配されたレストランを貸し切って行われた。京料理の名だたる老舗が集い、それぞれが一品ずつ提供するという贅沢な食事会だ。参加費は1万円。菊乃井、木乃婦、瓢亭、美濃吉、萬重、六盛、山ばな平八茶屋、萬亀楼、たん熊北店……。これだけの名店が集うのだから破格である。案の定、定員の80席はあっという間に売り切れたと聞く。
京料理に限らず、京都の文化は、それぞれが単体で存在するのではなく、異なるジャンルの担い手が、切磋琢磨し、影響を受けあって発展してきたのが特徴の一つ。「京料理フェア」でも、食を楽しむだけではなく、能やいけばなもご覧いただくこととなった。能といけばなを披露したのは、ホテルの中庭を望む半屋外のテラス。能の囃子に合わせて私がいけばなを披露し、その作品を背景に能を演じていただくという趣向だ。
金剛流の若宗家、金剛龍謹氏が選んだ演目は「龍田」。奈良・竜田川のモミジの美しさがテーマだから、それに合わせたいけばな作品には、どうしてもモミジは外せない。ただ、紅葉は、葉の付け根に離層が形成されて水や養分の行き来が妨げられているわけだから、もとより保ちが悪い。いけた端から、葉が巻いてしまうのだ。しかも、会場は屋外で風も吹く。モミジ一色では、はなはだ心許ない。そこで、力強い枝ぶりの黒松を合わせいけることにした。松葉の緑は、モミジの赤の補色にあたるので、互いの色を引き立てあう効果が期待できる。黒松のおかげで、モミジは一層艶やかさを増した。また、色づいたモミジに合わせて、黄・橙・赤・茶の菊を取り合わせる。菊は、大輪のものからスプレー咲きのものまで、サイズも形状も異なるものを取り合わせて視覚上の変化を加え、ざらつき感のある作品となった。
ちはやぶる 神世も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは 業平
京料理の基本は、出汁だ。イベント当日、出汁を引く実演をして下さったのは、瓢亭15代当主の髙橋義弘さん。瓢亭の出汁は、鰹ではなく鮪で引く。それも荒節・本枯節の背と腹をブレンドして。この出汁は、瓢亭の伝統ではなく、お父様の14代髙橋英一さんが工夫したものだ。他の伝統文化と同じく、京料理も今なお進化し続ける。蛇足だが、京料理では、牛や豚などの四つ足を使わないのが本則だという。甲羅の形状から「まる」と呼ばれるスッポンは例外。スッポンは魚の仲間とされ、四つ足には数えられなかったのだとか。
私も当日、髙橋英一さんや菊乃井の村田吉弘さんと共にお食事をいただいた。村田さんは料理界の重鎮だが、今でもわからないことがあると髙橋さんに電話して聞くんだ、とおっしゃる。相互に学びあい、高めあう。そんな気風があるからこそ、京料理は日本料理のトップリーダーで居続けられるのだろう。いけばな界も負けてはいられない。
文・写真=笹岡隆甫
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