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それぞれの悲しみのかたちを描く意味|映画『君の忘れ方』作道雄監督インタビュー
現在公開中の映画『君の忘れ方』は、大切な人を失った人が再生する姿を描いたヒューマンドラマ。主演は若手実力派俳優とされる坂東龍汰さん、相手役には元乃木坂46の国民的アイドルで、現在は女優として活躍する西野七瀬さん。映画監督・作道雄さんにインタビューしました。
結婚式を目前に控えた時に交通事故で恋人・美紀(西野)を失った昴(坂東)は、ラジオ構成作家としての仕事を続けつつも悶々とした日々を送ります。母(南果歩)や同僚の勧めで故郷の岐阜に帰省し、そこで出会った人との触れ合いを通して訪れた心の変化とは──。
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──「グリーフケア」という、死別して悲しみを抱える遺族たちをサポートする概念があることをこの映画で初めて知りました。重いテーマだと思いますが、監督として、脚本家としてどのように向き合われたのでしょうか。
作道 2020年の秋の終わり頃、映画で「グリーフケア」について取り上げてほしいというお話があったのですが、大変手こずりました。2年間くらい、書いては直しを繰り返して、長編を3本書きました。でも、脚本をなんとか書き上げても、映像としてどのようにすればいいのか、どうしても見えなくて。
──VR映画『Thank you for sharing your world』でヴェネツィア国際映画祭で正式招待され、様々なご経験がある中でも難しかったのは、やはりテーマが死別だったからでしょうか。監督が小学一年生の頃、お父様を病気で亡くされたと伺いましたが……。
作道 そうですね。その頃、実家を人に貸すことになって、17年くらいそのままにしていた父親の部屋に足を踏み入れたんです。掃除をしていた時に、ふと、封印していた記憶が決壊するかのように一斉に蘇ってきて。そんなことは初めてでした。
この時、なぜ脚本を書いてもしっくりこなかったのか分かりました。自分の死生観を避けて、どこから取ってきたようなものを書いていたからなのだと。すごく腑に落ちて。
悲しみが癒されるなんてことはありえないけれど、悲しみの感じ方が変わるようになる、それを映画で描こうと思いました。
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──映画では、主人公・昴の悲しみと戸惑いがひしひしと伝わってきました。主役に坂東さんを起用されたのはなぜなのでしょう。
作道 4年くらい前に、坂東君と共通の知り合いのディレクターから「バンちゃんいいよー」ってメッセージが届いて。彼の出演作『スパイの妻』*を観て、感情が全身からにじみでるようにお芝居する姿に惹かれました。ほかの出演作も拝見して、確かに(演技が)素晴らしいし、特に彼の声が素敵だと思いました。ぜひオファーできたらと。
*2020年公開。黒沢清監督が、第77回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した作品
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──岐阜に向かう電車や、安峰山の景色がとてもきれいでした。山を背景にした坂東君の横顔も美しかったです。撮影の最中はどんな様子でしたか。
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作道 真摯に、前向きに取り組んでくれました。西野さん演じる美紀の写真をスマホに入れて、撮影期間中、それを眺めながらつらそうな表情をしていたのが印象的でした。彼独特のアプローチで演じてくれたことに感謝ですね。
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──西野七瀬さんも、昴が見る幻影という存在で難しい役どころだったと思いますが、とても自然でした。
作道 儚さと同時に美しさ、可愛さのある人で。ずっとモニターを観ていましたが、無表情なのに微笑んでいたり、ちょっと怒って見えたり。これを両立できる女優さんは限られると思うので、西野さんで良かったと思いました。
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──ストーリー展開も意外でした。勝手なイメージですが、二人の楽しかった日々が長くあって観客が感情移入していくのかと思っていたら、冒頭から恋人の美紀は亡くなってしまって。ちょっと衝撃的でした。
作道 主人公の昴と観客の気持ちを同化させたかったというのが狙いとしてありました。二人の幸せな日々を描いていくと、観客はこの後に亡くなるぞと思いながら映画を観ます。でもそれは僕にとってはあまり映画の狙いではなくて。「え、もういなくなっちゃった。どうするの、これ」という昴の感覚をどこかリンクさせたかった。
──まさにその通りの感覚を持ちました。また、二人のお話だけが描かれるのだと思っていたら、様々な人の死生観が描かれていたのも意外でした。
作道 今回、実際にグリーフケアの取材にいったのですが、そうすると、本当にいろんなタイプの悲しみを持たれている方がいて。夫に先立たれた人、娘を亡くした人、ペットを亡くした人、それも最近だったり、10年前だったり。その方たちがなぜこのグリーフケアの場に集まり、安らぎを見出しているかと考えた時に、多分いろんな悲しみがあると感じられた方が、自分の悲しみを客観視できて、気が楽になれるからだろうなと思いました。そう考えた時に、この映画がまさにグリーフケアの会のようなものになればいいなと思って。
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また、観客に疎外感を持ってほしくないという気持ちもありました。自分の場合、中年男性が奥さんを亡くしたという映画を観ても、「その悲しみは自分にはわからない」と自分勝手な寂しさを抱えてしまうこともあるので。それもあって、いろんな悲しみを描いたというのがあります。それでも、ピンとこないという人もいると思いますが、いつかそういった状況があった時に、こんな映画があったことを思い出してもらえればと思います。
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僕は、人はみんな物語を作りながら生きているのではないかと思っていて。例えば、今日の予定を立てたりしますよね。何時にどこでとか。あるいは、一年間の予定をぼんやり振り返ったり。
──それぞれが主人公の物語ですよね。
作道 はい。それが、「人をなくす」というのは、「物語をなくす」に近い状態だと思うのですよね。わけがわからなくて、振り返りようもない。今の自分と、その死別とを線で結ぶことが怖くなってしまう。
──葬儀に出た時点で、亡くなった人との思い出を振り返っているように思えるのですが、「物語をなくす」というは、どういうことなのでしょうか。
作道 そうですね。多分、自分の日常が歪むか歪まないかがすごく大きくて。家にいる人や毎日携帯でメッセージを送りあっている人がいなくなると、全てが変わってしまう。
──そうですね。
作道 その死が、結局どういうことだったのかを見つめ直すことで、死や喪失の捉え方が次第に変わっていき、自分の中で意味を見出せるようになっていく、というのがあると思います。例えば、昴にとって美紀がどんな存在だったのか。昴も最初はわからなかったとしても、底を見ると、あとは上がるしかないというか。亡くなった人に対する感情を爆発させて、泣いたり、人を傷つけたりすることで、それがちゃんと過去になる面もあるのではと思います。
──「過去になる」というのは。
作道 (その人の死について)考えないようにしようと思っているときはしんどいもので。普段は忘れていてもよくて、ふとしたきっかけで、思い出す。それが「過去になる」ということで、その形がいいのではということを伝えられたらと思いました。
──映画のタイトル「君の忘れ方」にもつながることですね。
ありがとうございました。
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文=西田信子
写真=飯尾佳央
作道 雄(さくどう・ゆう)
1990年大阪府生まれ。映画監督・脚本家。制作プロダクション、クリエイティブスタジオゲツクロ代表。監督・脚本作のVRアニメーション『Thank you for sharing your world』が第79回ヴェネチア国際映画祭にノミネート、正式招待された。
▼公式HP
▼劇場情報
https://usaginoie.jp/theater/?id=kiminowasurekata
▼コラムバックナンバー
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