秋バラで彩る 100年近く続く招待制の催し「洛趣会展」|花の道しるべ from 京都
京都の老舗が集い、毎年開催している「洛趣会展」という展示会がある。同人26社の常連客を対象とした招待制の催しで、それぞれのご主人が袴姿でお客様を迎えられる。招待状をいただいた方しか参加できないクローズドイベントなのだが、例年、会場は大勢の人で溢れかえる。
昭和3年に始まり、近年は毎年11月3日、4日の2日間、東本願寺渉成園、くろ谷金戒光明寺、八坂神社、祇園歌舞練場など、京都の寺社や古建築を会場にして行われてきた。毎年変わる会場を巡るのも楽しみの一つで、雰囲気や設えを確認しながら、ここでいけばな展をさせていただくのも素敵そうだな、と密かに企んだりしている。感染拡大防止の観点から、2年間、開催が見送られ、今年は3年ぶりの開催となる。
洛趣会展のように長い歴史を持つ招待制の展示会が多いのは、京都ならではかもしれない。3年に一度開催される千家十職*さんの「十備会」や、食の老舗が集う百味会が5年に一度開催する「百味展」も同様だ。
洛趣会展の案内状には、「売り申さずお褒めいただきたく候」と書かれ、大きく天狗が描かれている。販売は無く、自慢の品を鼻を高くして披露するところから、天狗のモチーフが選ばれたと聞く。当日は、各お店のブースにも天狗の面が飾られる。
老舗ならではの珍しい逸品に目の保養をさせていただくのだが、それぞれのお店のご当主やご子息が、趣向を凝らした展示の説明をして下さるのも嬉しい。京都は狭い町なので、お店のご主人も招待客も顔見知りが多く、会場のあちこちが小さな社交場となり、話に花が咲く。
日替わりで表千家、裏千家の釜が掛けられ、とらやの主菓子と一保堂の薄茶をご馳走になる。時間があれば、本家尾張屋のお蕎麦をいただけるのも嬉しい。今年は、お茶とお蕎麦の接待は控えるようだが、近いうちに再開してほしいものだ。
創作京履物「伊と忠」のブースでは、毎年、母である副家元がいけばなを担当している。3年前の前回、会場は相国寺だった。その年は、色鮮やかな草履を並べると聞いて、いけばなもカラフルに。
母が選んだのはブルーのガラス瓶。主役は、光沢があり青々とした葉が艶やかなアオキの枝だった。アオキの実は晩秋から初冬にかけて赤く色づく。子供のころ、雪が積もると、妹弟と競い合うように雪だるまや雪うさぎを作ったのだが、雪うさぎの目にピッタリなのが、アオキの愛らしい赤い実だった。
添えいけたのは、秋バラだ。バラの旬といえば春から初夏にかけてだが、秋のバラには独特の色気があり、一味違った趣を醸し出す。色とりどりの秋バラを取り合わせるのは、実に楽しい時間だ。艶やかで、人々を魅了するバラ。花の女王と呼ばれるのも頷ける。
アクセントは、小ぶりのロウヤガキ。柿の鮮やかで濃いオレンジは、秋を代表する色合い。この色が加わるとぐっと秋の風情が深まる気がする。器の口にカスミソウを加えると引き締まった印象に。
伊と忠さんのブースには、毎年花を飾っているので、「毎回楽しみにしています」といった声も聞こえ、手を抜けない。今年の会場は東福寺。いけばなで、より一層華やぎのある場を提供したい。
文・写真=笹岡隆甫
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