叡山電車「きらら」で貴船まで|〔特集〕京都発、観光列車で巡る夏
「京都の人は叡山電車で貴船に行きますか?」。夏のはじめに質問をいただいた。行きます行きます、少なくとも私が貴船へ行くときは、叡電です。
もちろん貴船へ行く方法はほかにもある。けれど、貴船は市内とはいえ、気温だけでなく、空気感もまったく異なる別天地。気の生ずる根源として「気生根」の字もあてるほど、そんな聖域へ足を踏み入れるには、いつもとはちょっと違う手続きが欲しい。
そうしたとき、鴨川デルタのほど近く、「出町柳」という小さな駅から1両か2両でゴトゴト走っていく叡電は、非日常への入り口に格好なのだ。
まして展望列車「きらら」なら窓に向いて座るパノラマシートもあって、気分も上々。これに乗りさえすればおよそ30分でうだる暑さの町を脱出、清らかな瀬音と谷わたる鳥の声、そして、ただのひんやりとは違う深山の香気に包まれるような、渓谷の極楽境に辿り着くことができる。
降りる駅は「貴船口」。鞍馬の奥から流れる鞍馬川と貴船川が合流する辺りだ。そこから「川床」の並ぶ貴船神社界隈まで、貴船川を遡るように歩いて20〜30分程度。途中、平安の女流歌人、和泉式部がこの辺りで詠んだという和歌にもちなむ「蛍岩」など横目に見つつ、貴船神社まで、あとどのくらい……と、ひと息つきたいくらいの場所に、川床カフェ「古今藤や」がある。
ここは川沿いのテラス席(席料なし)のほか、スイーツやドリンクの価格に550円をプラスするだけで、涼感満点の「川床」が楽しめる、知る人ぞ知る穴場。昨今、カフェもちらほら増えている貴船だが、しつらいも雰囲気も別格の感がある。しかも、この辺りにお店は一軒だけ。川床へ降りた途端、パーッと視界が広がり、清流は触れられるほど間近。頭上からは青葉越しの陽光がキラキラ。その開放感たるや!
「お客さんが、ちょっとおビール飲んで、川風に吹かれて、ゆっくりしてはるのを見ると、羨ましいなあと思うときがあります」とは「古今藤や」の看板娘、藤谷芳香さん。日々、この地に居る人すら魅了する貴船川の清涼なのである。
文=安藤寿和子 写真=伊藤 信
──この続きは本誌でお楽しみいただけます。一行は、川端康成ら京の文化人も愛したという「貴船ふじや」の川床でゆったりした時間を過ごします。本特集では、鉄道好きの俳優・村井美樹さんが観光列車に乗って丹後の海辺を訪れ、日本三景のひとつ、天橋立でサイクリング。その後、丹後あかまつ号に乗って由良川橋梁の絶景を堪能します。親子で楽しむ嵯峨野のトロッコ列車と保津川下りの船もご紹介! 京都で楽しむ観光列車の旅を美しきグラビアと共にぜひお楽しみください。
▼ひととき2024年8月号をお求めの方はこちら
出典:ひととき2024年8月号