朝ドラ『らんまん』で、華道家にとって印象的だった花|花の道しるべ from 京都
文化庁の京都移転を花で彩る
この秋、文化庁京都移転を記念した事業が、京都府内各地で開催されている。9月8日・9日には、ロームシアター京都で、Opening Celebraton「きょう ハレの日、」が開催され、京都いけばな協会が作品協力をした。9月9日は重陽の節句。その吉日にちなんで、私は五行五色*(木火土金水=青赤黄白黒)を意識し、菊の花をいけた。
9月23日・24日には、京都市役所本庁舎で、茶道部の大学生・短大生による「御池茶会」が開かれた。3年間、コロナで茶会が開催できなかった学生たちにとって、貴重な機会になったようだ。しかし、庁舎内という性質上、露地*はなく、KYOTO Sustainable Network*が露地代わりの空間演出を担当することになった。1階では池坊専好さんが、4階では私が、それぞれ、三木表悦さんの漆工芸と諏訪蘇山さんの青磁器を用いて、いけばな作品をいけあげた。
私は、力強いアカマツの枝を立ち上げ、その下にナツハゼの枝を添えた。さらに、三木さんの漆に映りこむようにウメモドキの実を伸ばし、その上に枝ぶりのおもしろいカンレンボクを合わせる。花ものは、ここでも菊が主役。色とりどりの菊を合わせいけ、妖艶なヤマシャクヤクの実、毒があるのに美しい薄紫のトリカブトも加えた。小ぶりの器には、紅い葉が美しいベニマンサクに、愛らしいカワラナデシコを添えた。秋は花材が豊富で、いけていてとても楽しい。ついあれもこれもと花数が増えてしまうのも、この季節ならではの醍醐味。
『らんまん』で印象に残ったノジギク
話は変わるが、NHK大阪放送局に「ぐるっと関西おひるまえ」という長寿番組がある。生放送で地域の情報を届ける情報バラエティで、私は2007~2012年まで1~2ヶ月に1度の頻度で、いけばなのコーナーを担当していた。少し間を開けて、2020年から再び担当しており、カップ&ソーサー、マグカップやビアグラスなどの食器、いただきもののお菓子の空き箱や籠など、自宅にある器を使って気軽に実践できる、小ぶりのいけばなを紹介している。先月の放送では、菊の話題を届けた。
番組内では、小ぶりの菊を使ったいけかたをご紹介したのだが、その際に合わせて紹介したのが「ノジギク」。連続テレビ小説「らんまん」で、様々な菊を持ち寄って競う「菊くらべ」のシーンで登場したのを覚えておられるだろうか。浜辺美波さん演じる寿恵子が持参したのがノジギクだ。牧野富太郎博士(役名は槙野万太郎)が発見して命名した日本の在来種。菊の原種の一つでもある。花をつけるのは10月後半以降なので、今回は葉をつけた状態での紹介となった。
この「菊くらべ」のシーンで、神木隆之介さん演じる主人公の万太郎が語った言葉が耳に残っている。「みんなに花を愛でる思いがあったら、人の世に争いは起こらんき」。この言葉を聴いて、20年ほど前に、何かで読んだ坂本龍一さんの言葉を思い出した。「戦場で敵同士が撃ち合っている時、ふと聞こえてきた歌やメロディーに銃を下ろすという音楽がまだあり得るんじゃないか*」。当時、「それは花にも当てはまるのでは、いつかそんな花をいけてみたい」と夢想したことを思い出した。
人間は、何のために花をいけるのか。戦地に一輪のノジギクを。
文・写真=笹岡隆甫
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