和紅茶ブレンダーに聞く! おいしく楽しむ和紅茶の世界
よい紅茶は、気温が高くて降水量が多く、標高の高い土地で生まれる――そう思っている方も多いかもしれませんが、そんなことはありません。海外はもとより、日本でも山地から平地まで様々な土地で、その場所に応じた個性豊かなおいしい紅茶が生まれています。一般的に、鹿児島・沖縄では力強い紅茶が育ち、本州では柔らかい優しい味の紅茶が育ちますが、産地や品種が同じであっても決して味は画一的ではないのが、和紅茶の最大の魅力です。
和紅茶は、生産者の自己表現が形になったものでもあるでしょう。いま、日本で和紅茶を作っているのは主に小規模な個人生産者。その誰もが、紅茶を単純な換金作物として育ててはいません。他の作物を育てた方がよっぽど利益が出るのです。他所の大産地に買い取られるお茶を作るだけでなく、「この土地で自分たちがお茶を作る意味とは何か?」、そんな問いを出発点に、和紅茶で自分の思いを表現しているのです。
生産者ごとに個性のある和紅茶。味も千差万別なら淹れ方もまた然りです。「こうすれば必ずおいしい」という絶対的な方法などなく、和紅茶の数だけ淹れ方があると言っても過言ではありません。
和紅茶の独自性を楽しむ!
そこで、私は和紅茶の特性を、大きく3つに分類しました。
1つ目が緑茶品種を発酵させた「滋納」で、渋みが少なくまろやかな味が楽しめます。おいしく淹れるコツは、じっくり時間をかけて抽出し、味わいを引き出すこと。2つ目は「べにふうき」などの紅茶品種を使った発酵度の浅い「清廉」。花のような上品な香りを楽しむタイプで、沸騰したてのお湯で、2~3分で手早く淹れるのがおすすめです。そして3つ目の「望蘭」は、セイロンティーやアッサムティーなど、海外産の紅茶を目指して作られた色鮮やかなルビー色の和紅茶。濃厚な味わいなので、砂糖やミルクを入れて味わうのもよいでしょう。
舌に感じるタンニンの強さ、重さは、滋納→清廉→望蘭の順。ボディ*が強くなるほど、こってりしたお菓子が合うようになります。煉り羊羹やみたらし団子、大福などの和菓子なら滋納。清廉も合いますね。カステラやケーキ、スコーンなら望蘭がよいでしょう。また、気候がもたらす味、土地の水の性質やミネラルのバランスなど、いろいろな特性が混じり合ってお茶の味が決まりますから、合わせるお菓子も、同じ風土から生まれたものが自然と調和します。
自分でおいしく飲むのに王道も邪道もありません。まずは一度淹れて飲んでみて、ちょっと違うなと思ったら淹れ方を変えるなどして、自由なスタイルで楽しんでください。
私はというと、嬉野の和紅茶を淹れるときは、お湯にほんの少しにがりを入れます。これは佐賀市の水の性質を生産地のそれに近づけるため。淹れ方や水で変わる風味を気軽に楽しんでほしいです。(談)
写真=荒井孝治
――この旅の続きは本誌でお読みになれます。現在の和紅茶ブームのきっかけを作ったともいえる紅茶の品種 “べにふうき” 。その産地である鹿児島県枕崎と知覧、そして生産者たちが独自の紅茶作りに切磋琢磨する熊本県の水俣を訪ねます。おいしい和紅茶を探す旅、ぜひお楽しみください。
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