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[歌舞伎を描く]“明治の写楽”と呼ばれた国貞の弟子・豊原国周らによる、秘蔵の浮世絵が初公開(静嘉堂文庫美術館)
豊原国周生誕190周年を記念して、静嘉堂文庫美術館で企画展「歌舞伎を描く」が開催されています(来月23日まで)。本展示では浮世絵の三大テーマ(美人画・役者絵・風景画)のひとつである役者絵を中心に、歌舞伎にまつわる浮世絵が公開されます。静嘉堂創設者である三菱二代社長岩崎彌之助の早苗夫人愛玩の錦絵帖は初公開。摺ったばかりのような鮮やかな浮世絵の色彩は必見です。
静嘉堂は国宝・曜変天目をはじめとする東洋古美術等を多く所有する美術館。江戸から明治にかけて一般大衆に愛された浮世絵は、静嘉堂のコレクションとは毛色が異なることから、これまで美人画展などは行ってきたものの、あまり多くの作品を公開することはありませんでした。近年、静嘉堂で一点物の錦絵*数百点の存在が明らかとなったこともあり、今回役者絵をテーマにした企画展の開催に至りました。
*多色摺木版画。浮世絵のカラー版
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浮世絵に使われている紙や絵具は光に弱いため、浮世絵が展示される期間は短く、照明も暗くする傾向にあります。経年劣化は避けられないものですが、今回初公開される早苗夫人の錦絵帖は、幕末から明治にかけての作品でありながら、「まさに摺りたてのように鮮やかな色彩。これはかなり貴重です」と安村敏信館長は話します。
早苗さんは、幕末明治期に政治家として活躍した後藤象二郎の長女であり、フランス語を学びつつ和歌をつくり、観劇も楽しむ人でした。静嘉堂文庫には「早苗の錦絵帖がこんなにも美しいのは、浮世絵が摺り上がると版元が画帖に整えて、ご夫婦のお屋敷を訪ねていたからだ」という話が伝わるといいます。
本展覧会は、4部構成。入館して右手にある第1章「歌舞伎の流れ」では、静嘉堂のコレクションから、歌舞伎を描いた絵の歴史をたどります。木版墨摺りから、徐々に色彩が豊かになり、江戸後期、明和2(1765)年に「錦絵」が誕生。浮世絵が進化していく様をご覧になるとともに、歌舞伎役者のブロマイドとも言われるようになった役者絵の変化をお楽しみいただけます。
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第2、3章はすべて初公開の作品。早苗夫人の錦絵帖を中心に、錦絵の技術が最高潮に達した幕末明治期に活躍した歌川派の作品がずらりと並びます。この会場に足を踏み入れると、歌舞伎役者たちの勇ましく華やかな姿と色の鮮やかさ、着物などの精緻な描写に目を見張ります。特に、くっきりとした赤の色彩が印象的でした。
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幕末から明治にかけて、錦絵界の重鎮となった歌川国貞やその弟子の豊原国周らが斬新な役者絵を生み出しました。
今年は、「明治の写楽」といわれた国周の生誕190周年。国周はもともと美人画・役者絵を得意としていましたが、人形町具足屋嘉兵衛を版元にした役者似顔大首絵シリーズが好評となり、「役者絵の国周」として知られるようになります。84回の引っ越しに、40回も結婚したとされる国周でしたが、独自の作風で明治浮世絵を盛り立てます。
第3章では国周が親しかったという歌舞伎役者・五世尾上菊五郎を描いた浮世絵が多く展示されています。菊五郎は団十郎、左団次と共に明治の歌舞伎界をけん引し団菊左時代を築いた役者。凝り性で、演目「骨寄せの岩藤」のために本物の骸骨を借りて模型をつくって観察したり、観客をあっと驚かせる大仕掛けを行ったといいます。
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五世菊五郎を描いた作品が多いのは、彌之助と早苗夫人が彼を贔屓にしていたからだといいます。彌之助は神奈川県大磯の山を買って母親に別荘を建てたといいますが、菊五郎にも大磯の500坪の土地を与えていました。
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豊原国周「五世尾上菊五郎の大磯禱龍館之図」大判錦絵三枚続 明治24年(1891)
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豊原周義「塩冶判官と大星由良之助」明治11年(1878)
第4章では、浮世絵界の重鎮となった歌川国貞が描いた「芝居町 新吉原 風俗絵鑑」が展示されています。舞台はもちろん、観客たちをも描いた細やかな描写に驚かされます。これらの絵を観ていると、まるで歌舞伎の舞台を観ているようで、当時の人々の活気が伝わってきます。
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また、本展では大河ドラマ「べらぼう」にちなみ、蔦屋重三郎の墓碑の拓本をはじめ、蔦重が打ち出した歌麿やその弟子たちの作品も展示されています。幕末から明治にかけての美しい錦絵をこの機会にぜひご堪能ください。
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店の前にある灯籠に蔦屋重三郎の名があります
文・館内撮影=西田信子
写真提供=静嘉堂文庫美術館
静嘉堂文庫美術館
[開]10:00-17:00
[休]月曜日(祝休日は開館し翌平日休館)、展示替期間、年末年始など
[料]一般 1,500円 大学・専門学校・高校生 1,000円 中学生以下 無料
[所]東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F
※美術館入口は、明治安田ヴィレッジ(旧 丸の内MY PLAZA)の1階
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
地下鉄千代田線二重橋前〈丸の内〉駅 3番出口直結
JR東京駅 丸の内南口より 徒歩5分
https://www.seikado.or.jp/
◆担当学芸員のギャラリートーク
2025年2月26日(水)12:30~13:00
◆担当学芸員のスライドトーク
2月23日(日)11:00~、13:00~
3月9日(日)11:00~、14:30~
◆太田記念美術館との相互割
静嘉堂文庫美術館の「歌舞伎を描く」展半券で太田記念美術館「生誕190年記念 豊原国周」展
⇒一般・大高生ともに100円引。
太田記念美術館「生誕190年記念 豊原国周」半券で当館「歌舞伎を描く」
⇒入館料一般200円引。
*他の割引との併用はできません。
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